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広野に咲く花の色
しおりを挟む出会いの幅を広げるために李代さんに誘われていたハイキングに参加すると、悠雪さんと紀莉哉さんも来ていて総勢8人で初心者に優しい山を登っていくけれど私には上級者のようにきつい。
けれど、私と同じ年齢の李代さんはずんずん歩き、みんなをリードして景色を楽しむ余裕も持っている。
こんなことなら、後で行く日帰り温泉で合流するんだった…。
私が取り返しのつかない後悔をしながら息を整えるためにゆったりと歩いていると、最後尾2番目にいた悠雪さんが私が遅れてるのを見かねて隣にやってきた。
悠雪「大丈夫?」
幸来未「…大丈夫。」
これまた同い年と判明した悠雪さんは敬語をお互い辞めようと提案してきたから私は色々と疲れて大丈夫ではない。
そんな余裕のない私の手を勝手に握ってきた悠雪さんを見て、不意に振り向いた紀莉哉さんは自分の唇の前で指ハートを作り投げキッスをして満足気な顔をすると、みんなの背中をわざとらしく押して私たちと距離を作った。
悠雪「ゆっくりで大丈夫。俺がみんなの弁当持ってるし。」
と言って悠雪さんは軽くリュックを見せ、私を安心させようとしてきた。
幸来未「…お弁当の中身は?」
悠雪「えー…と、牛カルビと牛タンの焼肉弁当と俺のイチオシ幕の内弁当。」
幸来未「なんでイチオシ?」
私は焼肉弁当一択でしかなかったけど、一応参考がてら質問してみる。
悠雪「伊勢海老を団子にしたエビフライと油が乗った大きな銀鮭が入ってるから。」
んー、悩ましいっ。
このお弁当のことを考えながらお昼ご飯を食べる山頂まで気力で登り、やっと頂上に着くとすでに到着していたメンバーは飲み物を広げて団欒していた。
私は悠雪さんに手を繋がれたままみんながいるレジャーシートに連れていかれ、紀莉哉さんと悠雪さんに挟まれるように座らされた。
悠雪「弁当どっちがいい?」
と、レジャーシートの真ん中にみんなのお弁当を置いた瞬間、戦場になった横で悠雪さんは自分の手に焼肉弁当と幕の内弁当それぞれ1つずつ持っていた。
私はどっちも食べたいけどお腹と建前的にそんなこと出来ないし、自分では決めきれない。
幸来未「悠雪くんが決めていいよ。」
私は人任せにして水分補給をしていると、悠雪さんはお弁当の蓋を2つとも開けて私と自分の間に置いた。
悠雪「一緒に食べよう?」
幸来未「…うん。」
それは嬉しいけど、こんなにいろんな人がいる前でそういうのをされるのはちょっとやだ。
けど、しっかりメインのおかずが食べられてラッキーだなと思わず笑みをこぼしていると悠雪さんはお弁当を食べ終えた後、自分のリュックから小分けにしたあのチョコを出してきた。
悠雪「疲れた時はしっかり糖分ね。好きなだけ食べてね。」
幸来未「ありがと。」
私はおやつのチョコを1つ貰い、帰りのコンビニで買おうと思っているココアの味を思い出していると李代さんが山を降りる前にトイレに行こうと言って私をあの2人から引き離してくれた。
少し肩が軽くなった私は早めに用を足し、李代さんをトイレ外で待っていると李代さんはしっかりメイク直しをして戻ってきた。
こういう細かいことが自分を美人にしていくんだなと思っていると李代さんは私の目元をそっと親指で撫でた。
李代「マスカラ落ちてた。」
幸来未「ありがとう。」
トイレで軽く鏡を見た時は気づかなかった…。
まあ、気にする必要のないメンバーなんだけんどね。
李代「幸来未と悠雪は付き合ってるの?」
幸来未「え?」
私はまさかの質問で思わず歩き出した足でつまずく。
それを李代さんはすかさず片手で力強く支えてくれたのでちょっと惚れかける。
李代「お弁当分け合ってたり、一緒に登ってきたりしてたからさ。お似合いだなって思ってるよ。」
…お似合い?
どういうとこが?
幸来未「…どんなとこが?」
李代「身長差とか、お互いの雰囲気とか、2人の話してる感じの表情とかかな?」
それは私が合わせてるっていうか、悠雪さんが合わせてこようとしてるっていうか…。
けど、確実に言えるのは“お似合い”ではないってこと。
幸来未「そうでもない気がするけどなー。」
李代「ううん!2人ともいい感じだよ。付き合ってないの?」
幸来未「付き合ってないよ…。」
李代「えー!じゃあ頑張ろうね!」
幸来未「え…。」
李代「ね!」
と、李代さんは私の手を取ってぎゅっと念を送ってきたので頭だけで頷く。
それを見た李代さんは満足そうにみんなが待っていたリフト乗り場に戻り、しっかり私と悠雪さんをペアにした。
こういう感じ、めんどくさい…。
こんなことだったら今日発売日の単行本を通販で頼むんじゃなくて、いつも通り本屋に買いに行ってればよかった。
悠雪「あの飛行船、無事メイトさんに渡せた?」
と、私が心なしなのを感じたのか悠雪さんは時音の話題を出してきた。
幸来未「うん。ちゃんと渡せたよ。」
悠雪「メイトさん喜んでた?」
幸来未「大喜び。勝ってくれてありがとね。」
私は作り笑顔をして悠雪さんと目を合わせるように目線を上げると、悠雪さんが私の頬の方に手を伸ばしてきたのでキスされるのかと覚悟を決める。
けれど、悠雪さんは私の髪の毛に指先を通した。
悠雪「ほこりついてた。」
幸来未「…ありがと。」
悠雪「今度、みんなとホームパーティするんだけど、幸来未にも来てほしいな。」
…大人数は好きじゃないけど、2人よりはマシかな。
幸来未「いつ頃?」
悠雪「来月末かな。」
ハロウィンパーティでもするイケイケくんだと思ったら違ったっぽい。
幸来未「日時決まったらまた教えて。」
悠雪「分かった。」
今日は体力と気力も削がれたけど、パーティなら自分が好きな時に帰れるから楽そう。
私はまた新しい人と出会うための約束を取り付けて1番楽しみにしていた温泉に入って気晴らしをした。
環流 虹向/23:48
けれど、私と同じ年齢の李代さんはずんずん歩き、みんなをリードして景色を楽しむ余裕も持っている。
こんなことなら、後で行く日帰り温泉で合流するんだった…。
私が取り返しのつかない後悔をしながら息を整えるためにゆったりと歩いていると、最後尾2番目にいた悠雪さんが私が遅れてるのを見かねて隣にやってきた。
悠雪「大丈夫?」
幸来未「…大丈夫。」
これまた同い年と判明した悠雪さんは敬語をお互い辞めようと提案してきたから私は色々と疲れて大丈夫ではない。
そんな余裕のない私の手を勝手に握ってきた悠雪さんを見て、不意に振り向いた紀莉哉さんは自分の唇の前で指ハートを作り投げキッスをして満足気な顔をすると、みんなの背中をわざとらしく押して私たちと距離を作った。
悠雪「ゆっくりで大丈夫。俺がみんなの弁当持ってるし。」
と言って悠雪さんは軽くリュックを見せ、私を安心させようとしてきた。
幸来未「…お弁当の中身は?」
悠雪「えー…と、牛カルビと牛タンの焼肉弁当と俺のイチオシ幕の内弁当。」
幸来未「なんでイチオシ?」
私は焼肉弁当一択でしかなかったけど、一応参考がてら質問してみる。
悠雪「伊勢海老を団子にしたエビフライと油が乗った大きな銀鮭が入ってるから。」
んー、悩ましいっ。
このお弁当のことを考えながらお昼ご飯を食べる山頂まで気力で登り、やっと頂上に着くとすでに到着していたメンバーは飲み物を広げて団欒していた。
私は悠雪さんに手を繋がれたままみんながいるレジャーシートに連れていかれ、紀莉哉さんと悠雪さんに挟まれるように座らされた。
悠雪「弁当どっちがいい?」
と、レジャーシートの真ん中にみんなのお弁当を置いた瞬間、戦場になった横で悠雪さんは自分の手に焼肉弁当と幕の内弁当それぞれ1つずつ持っていた。
私はどっちも食べたいけどお腹と建前的にそんなこと出来ないし、自分では決めきれない。
幸来未「悠雪くんが決めていいよ。」
私は人任せにして水分補給をしていると、悠雪さんはお弁当の蓋を2つとも開けて私と自分の間に置いた。
悠雪「一緒に食べよう?」
幸来未「…うん。」
それは嬉しいけど、こんなにいろんな人がいる前でそういうのをされるのはちょっとやだ。
けど、しっかりメインのおかずが食べられてラッキーだなと思わず笑みをこぼしていると悠雪さんはお弁当を食べ終えた後、自分のリュックから小分けにしたあのチョコを出してきた。
悠雪「疲れた時はしっかり糖分ね。好きなだけ食べてね。」
幸来未「ありがと。」
私はおやつのチョコを1つ貰い、帰りのコンビニで買おうと思っているココアの味を思い出していると李代さんが山を降りる前にトイレに行こうと言って私をあの2人から引き離してくれた。
少し肩が軽くなった私は早めに用を足し、李代さんをトイレ外で待っていると李代さんはしっかりメイク直しをして戻ってきた。
こういう細かいことが自分を美人にしていくんだなと思っていると李代さんは私の目元をそっと親指で撫でた。
李代「マスカラ落ちてた。」
幸来未「ありがとう。」
トイレで軽く鏡を見た時は気づかなかった…。
まあ、気にする必要のないメンバーなんだけんどね。
李代「幸来未と悠雪は付き合ってるの?」
幸来未「え?」
私はまさかの質問で思わず歩き出した足でつまずく。
それを李代さんはすかさず片手で力強く支えてくれたのでちょっと惚れかける。
李代「お弁当分け合ってたり、一緒に登ってきたりしてたからさ。お似合いだなって思ってるよ。」
…お似合い?
どういうとこが?
幸来未「…どんなとこが?」
李代「身長差とか、お互いの雰囲気とか、2人の話してる感じの表情とかかな?」
それは私が合わせてるっていうか、悠雪さんが合わせてこようとしてるっていうか…。
けど、確実に言えるのは“お似合い”ではないってこと。
幸来未「そうでもない気がするけどなー。」
李代「ううん!2人ともいい感じだよ。付き合ってないの?」
幸来未「付き合ってないよ…。」
李代「えー!じゃあ頑張ろうね!」
幸来未「え…。」
李代「ね!」
と、李代さんは私の手を取ってぎゅっと念を送ってきたので頭だけで頷く。
それを見た李代さんは満足そうにみんなが待っていたリフト乗り場に戻り、しっかり私と悠雪さんをペアにした。
こういう感じ、めんどくさい…。
こんなことだったら今日発売日の単行本を通販で頼むんじゃなくて、いつも通り本屋に買いに行ってればよかった。
悠雪「あの飛行船、無事メイトさんに渡せた?」
と、私が心なしなのを感じたのか悠雪さんは時音の話題を出してきた。
幸来未「うん。ちゃんと渡せたよ。」
悠雪「メイトさん喜んでた?」
幸来未「大喜び。勝ってくれてありがとね。」
私は作り笑顔をして悠雪さんと目を合わせるように目線を上げると、悠雪さんが私の頬の方に手を伸ばしてきたのでキスされるのかと覚悟を決める。
けれど、悠雪さんは私の髪の毛に指先を通した。
悠雪「ほこりついてた。」
幸来未「…ありがと。」
悠雪「今度、みんなとホームパーティするんだけど、幸来未にも来てほしいな。」
…大人数は好きじゃないけど、2人よりはマシかな。
幸来未「いつ頃?」
悠雪「来月末かな。」
ハロウィンパーティでもするイケイケくんだと思ったら違ったっぽい。
幸来未「日時決まったらまた教えて。」
悠雪「分かった。」
今日は体力と気力も削がれたけど、パーティなら自分が好きな時に帰れるから楽そう。
私はまた新しい人と出会うための約束を取り付けて1番楽しみにしていた温泉に入って気晴らしをした。
環流 虹向/23:48
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