魔女さまとの結婚

笹椰かな

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 わたしは今日、結婚することになっている。
 その相手は森の深奥に住む麗しい魔女さまだ。

 式典は執り行わない。行うのは指輪の交換と誓いの口づけだけの予定だ。

 わたしが魔女さまと結婚することになったのは、十二年も前に義姉からされた意地悪に起因する。

 たしか秋の少し寒い日だった。
 当時六歳だったわたしは義姉と一緒に森までキノコを取りに行った際に、わざと置き去りにされてしまったのだ。
 ちなみにこの日限りの意地悪ではない。義姉とは気が合わず、似たようなことが度々あった。

 独りにされたことが心細くて怖くて、ただ泣きながらうずくまるしかなかった当時のわたし。
 そんな非力な子供を森に住む魔女さまは優しく保護し、森の出口まで導いてくれたのだ。

 けれど、森から出る前に対価を要求された。差し出せるものが何もなくて困っていると、魔女さまはこう告げてきた。

「大人になったら私と結婚してくれればそれでいい」
「結婚? どうして魔女さまはわたしと結婚したいの?」
「私は昔から結婚に憧れを持っていてね。でも、結婚したいと思うような人間には今まで出会えなかった。それが今日、キミという素直で可愛い素敵な人と出会えた。だからだよ」
「わたしのことを好きになってくれたってこと?」
「そうだよ。だから時が来たら私と結婚してくれないかい?」

 幼いわたしは素直にうなずいてから魔女さまと別れ、大人になるまでの長い長い時間を小さな村で自給自足をしながら過ごした。
 魔女さまに会いに行きたいと思う日もたくさんあったけれど、新しく出来た村の掟――森の中に子供だけで入ってはならない――のせいで、結局会いには行けなかった。


「やっと大人になれましたよ、魔女さま」

 十二年ぶりに入った森のその奥。魔女さまの住む家の小さな庭で、わたしは目の前にいる彼女に向けて微笑んだ。

 魔女さまはわたしより十一歳も年上らしいけれど、わたしとあまり変わらないくらい若く見えるし、とても美しい。
 腰まで伸びた長い黒髪はつややかで、切れ長の紅い両目はまるで薔薇のように鮮やかだ。

「そうだね。やっとキミと結婚できる。可愛いキャシー」

 そう言って魔女さまはわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。さらには優しく口づけまで……って、アレ?

「指輪の交換をまだしていないのに、口づけを先にするなんて!」
「おやまあ。若いくせにずいぶんお堅いことを言うな、キャシーは」

 頬を膨らませているわたしにそう言って、魔女さまはとても幸せそうに苦笑した。
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