上 下
1 / 1

妖精から聞きました ~ショウセツトウコウサイトという不思議な場所~

しおりを挟む
 暖かな日差しの中。緑の茂る庭に小さなテーブルを一台と椅子を二脚だけ置いて、友人と紅茶の時間を楽しむというのもなかなかに悪くない。

 そんな風に思いながら悠然と紅茶を啜っていると、
「ねえ、ブリジッタ。今、婚約破棄が流行はやっているんですって」
 不穏な言葉が発せられて、私は紅茶を吹き出してしまいそうになった。あー、危ない、危なかった。

「婚約破棄が流行っているって……どこでですか? ファッションみたいに婚約破棄が行われている恐ろしい地域が存在するんですか?」

 私の質問に友人であるエミリアーナは、
「えーっと、ショウセツトウコウサイト? という場所で、婚約破棄が頻発しているらしいの。身分の高い殿方が、お相手の女性との婚約を一方的な理由で破棄してしまうパターンが多いんですって」
 と答えた。

 ショウセツトウコウサイト? 聞いたこともない地名だ。もしかして国外なのだろうか?
 それにしても婚約破棄が頻発しているだなんて……。一度交わされた婚約をなかったことにするなんて、余程のことがない限りは難しいはずなのに。一体どんな場所なんだ、そこは。

「随分と穏やかじゃない話ですが、一体誰からそれを聞いたんですか?」

 ティーカップをソーサーへと戻し、眉を寄せながら訊ねると、エミリアーナはにこやかな笑みを浮かべた。

「あのね。異世界を旅している妖精から聞いたのよ。レーアっていう子なのだけれど、とっても博識で、私の知らないことをたくさん知っているの」
「あー。それ、例のアレですね、魔力がないと見えないっていう」
「例のアレなんて言わないでよ。まるで妖精が胡散臭い存在みたいじゃない」

 エミリアーナが頬を膨らませた。むくれさせてしまったようだ。
 だけど、魔力を持たない人間からしたら妖精という存在は十分に胡散臭いのだ。何せ見えないし、声も聞こえないのだから。

「っていうか、異世界って……。私たちが住む世界とは別の次元にあると言われている世界のことですよね? 妖精ってそんな場所にまで行けるんですか?」
「一部の妖精は行けるらしいわよ。魔力をたくさん持っている子は可能なんですって」
「へええ」

 何だか嘘みたいな話だ。

「でね、レーアが言うにはね、ショウセツトウコウサイトでは異世界転移や異世界転生も頻繁に起こるんですって」
「えっ……。ショウセツトウコウサイトという場所、ヤバくないですか?」
「そうね。かなりデンジャラスよね」
「物騒すぎますよ。それじゃあ民はみな、落ち着いて暮らせないのでは?」

 私が抱いたもっともな疑問に対し、エミリアーナは秘密を打ち明ける直前のように緊張した面持ちで口を開いた。目が真剣だ。

「それがね……。ショウセツトウコウサイトでは、それが喜ばれているんですって。理由はわからないけれど、歓迎されているそうよ」

 エミリアーナの言葉に私はぽかんとした。ショウセツトウコウサイトの住人たち。彼らは一体、どれだけの精神力を有しているんだ? というより、正常な精神状態ではないような気がする。奇病にでもかかっているのでは?

「すごい話ですね……」
「よねぇ」


 後日。エミリアーナによれば、私たちの話を陰で聞いていた妖精たちが、終始おかしそうに笑っていたらしい。
 が、私とエミリアーナにはその理由が見当もつかなかったし、彼女が妖精たちに理由を尋ねても、くすくすと笑うだけで何も教えてもらえなかったそうだ。解せない。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お医者様に救われたら、なんか家族になってたお話

下菊みこと
ファンタジー
魔法世界のご都合治療魔法。 魔法世界における自然派治療と現実世界の自然派療法はもちろん別物。 家族になる過程ももちろんご都合主義。 悲しくて可哀想で、そして最後は幸せな方向に無理矢理持っていくいつも通りのご都合主義。 そんな感じの短いSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

ルーチンから醒めたモブキャラは異世界に転移した勇者と旅に出る

安岐ルオウ
ファンタジー
たった今まで、自分は何者で何をしていたんだろう? 記憶をなくしたわけじゃないけど、急にはっと目が醒めたみたいに気がつく。そんな瞬間を経験したことはないでしょうか? そのとき、あなたはどんな気持ちでしたか? 何をしましたか? もしも次にそんな瞬間が訪れたら、どうしますか?

悪役令嬢vsチート転生者~悪役令嬢はチートスレイヤーになるようです。

葉霧 星
ファンタジー
この世界はフィクションである。 悪役令嬢のザナイドは、この世界のヒロインであるセージョを、表ではいじめ、裏では愛している。 彼女の使命はセージョにフラグを立てようとするヒーロー達を秘密裏にことごとく抹殺すること。 ある日、そんな彼女の前に現れたのは、ある所の神々にこよなく愛されるチート転生ヒーロー。 お互いに絶対に相容れることのない二人が出会ってしまった時、 最凶悪役令嬢と最強チート転生者の血を血で洗う頂上決戦が始まろうとしていた。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

一番の友と思っていた彼女に婚約者を奪われてしまいました。……けれども、私はあの時捨てられていて良かったのかもしれません。

四季
恋愛
一番の友と思っていた彼女に婚約者を奪われてしまいました。……けれども、私はあの時捨てられていて良かったのかもしれません。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...