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妖精から聞きました ~ショウセツトウコウサイトという不思議な場所~
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暖かな日差しの中。緑の茂る庭に小さなテーブルを一台と椅子を二脚だけ置いて、友人と紅茶の時間を楽しむというのもなかなかに悪くない。
そんな風に思いながら悠然と紅茶を啜っていると、
「ねえ、ブリジッタ。今、婚約破棄が流行っているんですって」
不穏な言葉が発せられて、私は紅茶を吹き出してしまいそうになった。あー、危ない、危なかった。
「婚約破棄が流行っているって……どこでですか? ファッションみたいに婚約破棄が行われている恐ろしい地域が存在するんですか?」
私の質問に友人であるエミリアーナは、
「えーっと、ショウセツトウコウサイト? という場所で、婚約破棄が頻発しているらしいの。身分の高い殿方が、お相手の女性との婚約を一方的な理由で破棄してしまうパターンが多いんですって」
と答えた。
ショウセツトウコウサイト? 聞いたこともない地名だ。もしかして国外なのだろうか?
それにしても婚約破棄が頻発しているだなんて……。一度交わされた婚約をなかったことにするなんて、余程のことがない限りは難しいはずなのに。一体どんな場所なんだ、そこは。
「随分と穏やかじゃない話ですが、一体誰からそれを聞いたんですか?」
ティーカップをソーサーへと戻し、眉を寄せながら訊ねると、エミリアーナはにこやかな笑みを浮かべた。
「あのね。異世界を旅している妖精から聞いたのよ。レーアっていう子なのだけれど、とっても博識で、私の知らないことをたくさん知っているの」
「あー。それ、例のアレですね、魔力がないと見えないっていう」
「例のアレなんて言わないでよ。まるで妖精が胡散臭い存在みたいじゃない」
エミリアーナが頬を膨らませた。むくれさせてしまったようだ。
だけど、魔力を持たない人間からしたら妖精という存在は十分に胡散臭いのだ。何せ見えないし、声も聞こえないのだから。
「っていうか、異世界って……。私たちが住む世界とは別の次元にあると言われている世界のことですよね? 妖精ってそんな場所にまで行けるんですか?」
「一部の妖精は行けるらしいわよ。魔力をたくさん持っている子は可能なんですって」
「へええ」
何だか嘘みたいな話だ。
「でね、レーアが言うにはね、ショウセツトウコウサイトでは異世界転移や異世界転生も頻繁に起こるんですって」
「えっ……。ショウセツトウコウサイトという場所、ヤバくないですか?」
「そうね。かなりデンジャラスよね」
「物騒すぎますよ。それじゃあ民は皆、落ち着いて暮らせないのでは?」
私が抱いたもっともな疑問に対し、エミリアーナは秘密を打ち明ける直前のように緊張した面持ちで口を開いた。目が真剣だ。
「それがね……。ショウセツトウコウサイトでは、それが喜ばれているんですって。理由はわからないけれど、歓迎されているそうよ」
エミリアーナの言葉に私はぽかんとした。ショウセツトウコウサイトの住人たち。彼らは一体、どれだけの精神力を有しているんだ? というより、正常な精神状態ではないような気がする。奇病にでもかかっているのでは?
「すごい話ですね……」
「よねぇ」
後日。エミリアーナによれば、私たちの話を陰で聞いていた妖精たちが、終始おかしそうに笑っていたらしい。
が、私とエミリアーナにはその理由が見当もつかなかったし、彼女が妖精たちに理由を尋ねても、くすくすと笑うだけで何も教えてもらえなかったそうだ。解せない。
そんな風に思いながら悠然と紅茶を啜っていると、
「ねえ、ブリジッタ。今、婚約破棄が流行っているんですって」
不穏な言葉が発せられて、私は紅茶を吹き出してしまいそうになった。あー、危ない、危なかった。
「婚約破棄が流行っているって……どこでですか? ファッションみたいに婚約破棄が行われている恐ろしい地域が存在するんですか?」
私の質問に友人であるエミリアーナは、
「えーっと、ショウセツトウコウサイト? という場所で、婚約破棄が頻発しているらしいの。身分の高い殿方が、お相手の女性との婚約を一方的な理由で破棄してしまうパターンが多いんですって」
と答えた。
ショウセツトウコウサイト? 聞いたこともない地名だ。もしかして国外なのだろうか?
それにしても婚約破棄が頻発しているだなんて……。一度交わされた婚約をなかったことにするなんて、余程のことがない限りは難しいはずなのに。一体どんな場所なんだ、そこは。
「随分と穏やかじゃない話ですが、一体誰からそれを聞いたんですか?」
ティーカップをソーサーへと戻し、眉を寄せながら訊ねると、エミリアーナはにこやかな笑みを浮かべた。
「あのね。異世界を旅している妖精から聞いたのよ。レーアっていう子なのだけれど、とっても博識で、私の知らないことをたくさん知っているの」
「あー。それ、例のアレですね、魔力がないと見えないっていう」
「例のアレなんて言わないでよ。まるで妖精が胡散臭い存在みたいじゃない」
エミリアーナが頬を膨らませた。むくれさせてしまったようだ。
だけど、魔力を持たない人間からしたら妖精という存在は十分に胡散臭いのだ。何せ見えないし、声も聞こえないのだから。
「っていうか、異世界って……。私たちが住む世界とは別の次元にあると言われている世界のことですよね? 妖精ってそんな場所にまで行けるんですか?」
「一部の妖精は行けるらしいわよ。魔力をたくさん持っている子は可能なんですって」
「へええ」
何だか嘘みたいな話だ。
「でね、レーアが言うにはね、ショウセツトウコウサイトでは異世界転移や異世界転生も頻繁に起こるんですって」
「えっ……。ショウセツトウコウサイトという場所、ヤバくないですか?」
「そうね。かなりデンジャラスよね」
「物騒すぎますよ。それじゃあ民は皆、落ち着いて暮らせないのでは?」
私が抱いたもっともな疑問に対し、エミリアーナは秘密を打ち明ける直前のように緊張した面持ちで口を開いた。目が真剣だ。
「それがね……。ショウセツトウコウサイトでは、それが喜ばれているんですって。理由はわからないけれど、歓迎されているそうよ」
エミリアーナの言葉に私はぽかんとした。ショウセツトウコウサイトの住人たち。彼らは一体、どれだけの精神力を有しているんだ? というより、正常な精神状態ではないような気がする。奇病にでもかかっているのでは?
「すごい話ですね……」
「よねぇ」
後日。エミリアーナによれば、私たちの話を陰で聞いていた妖精たちが、終始おかしそうに笑っていたらしい。
が、私とエミリアーナにはその理由が見当もつかなかったし、彼女が妖精たちに理由を尋ねても、くすくすと笑うだけで何も教えてもらえなかったそうだ。解せない。
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