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言葉は刃物だなんてよく言ったものだと思う。だから使い方を間違えれば凶器にもなるのだと、見た目は子供だけど頭脳は大人な名探偵が明言している。
だというのに私は昨日、三歳離れた小学五年生の妹に、「バカ、アホ、そんなに頭が悪いなら、どこかよその家にもらわれちゃえ」と言ってしまった。
でも元はと言えば妹が悪いのだ。明日までに返してほしいと言っておいたはずのマンガを、友達に又貸ししてしまったのだと言ってきたのだから。
「又貸しする時ってのはさ、まずは持ち主の許可が必要だと思うんですけど」
嫌味たらたらで言ってやると、妹は気まずそうにうつむきながら「ごめんなさい」とだけ言ってきた。
「それだけ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
壊れたロボットみたいにそれしか言わない妹にカチンと来て、私はつい「バカ、アホ、そんなに以下略」と言ってしまったのだ。
言われた側の妹はしゃくりあげながら泣いていた。正直、言い過ぎてしまったと思った。
だけど、お母さんが妹のことを叱って今後はしてはいけないと注意したのはわかるけれど、なぜか私にまで「そんなこと言っちゃだめ」と注意してきたのが気に入らなくて、私はへそを曲げた。だからその日、妹にもお母さんにも謝らなかった。
するとその夜、就寝中に夢を見た。
我が家に知らないおばさんが来て、妹を養子に貰いたいと言い出すというとんでもない夢だ。
おばさんは真剣な様子で、お母さんに向かって頭を下げている。
でも、お母さんなら絶対に反対するだろうと思った。なのに――
「いいですよ、どうぞもらって行ってください」
お母さんは笑顔で言った。おばさんが嬉しそうに微笑んでいる。
お母さんは別室にいる妹を呼びに行ってしまった。
両親は妹が小さかった頃に離婚しているので、お母さんは唯一の親だ。いつも私達の味方でいてくれる頼もしい大人。
そのお母さんが、こんなことを言うはずがない! そう思った瞬間、ぱちっと目が覚めた。汗をぐっしょりとかいてしまっていて気持ちが悪い。
目覚めの悪さにため息を吐いた後、私は昨日、自分が発した言葉を思い出した。
『そんなに頭が悪いなら、よその家にもらわれちゃえ』
私がああ言ったから、あんなにもひどい内容の夢を見たんだ。
私は目尻ににじんだ涙を指でぬぐうと、ふたりに謝る為に着替えもせずに自室を飛び出したのだった。
だというのに私は昨日、三歳離れた小学五年生の妹に、「バカ、アホ、そんなに頭が悪いなら、どこかよその家にもらわれちゃえ」と言ってしまった。
でも元はと言えば妹が悪いのだ。明日までに返してほしいと言っておいたはずのマンガを、友達に又貸ししてしまったのだと言ってきたのだから。
「又貸しする時ってのはさ、まずは持ち主の許可が必要だと思うんですけど」
嫌味たらたらで言ってやると、妹は気まずそうにうつむきながら「ごめんなさい」とだけ言ってきた。
「それだけ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
壊れたロボットみたいにそれしか言わない妹にカチンと来て、私はつい「バカ、アホ、そんなに以下略」と言ってしまったのだ。
言われた側の妹はしゃくりあげながら泣いていた。正直、言い過ぎてしまったと思った。
だけど、お母さんが妹のことを叱って今後はしてはいけないと注意したのはわかるけれど、なぜか私にまで「そんなこと言っちゃだめ」と注意してきたのが気に入らなくて、私はへそを曲げた。だからその日、妹にもお母さんにも謝らなかった。
するとその夜、就寝中に夢を見た。
我が家に知らないおばさんが来て、妹を養子に貰いたいと言い出すというとんでもない夢だ。
おばさんは真剣な様子で、お母さんに向かって頭を下げている。
でも、お母さんなら絶対に反対するだろうと思った。なのに――
「いいですよ、どうぞもらって行ってください」
お母さんは笑顔で言った。おばさんが嬉しそうに微笑んでいる。
お母さんは別室にいる妹を呼びに行ってしまった。
両親は妹が小さかった頃に離婚しているので、お母さんは唯一の親だ。いつも私達の味方でいてくれる頼もしい大人。
そのお母さんが、こんなことを言うはずがない! そう思った瞬間、ぱちっと目が覚めた。汗をぐっしょりとかいてしまっていて気持ちが悪い。
目覚めの悪さにため息を吐いた後、私は昨日、自分が発した言葉を思い出した。
『そんなに頭が悪いなら、よその家にもらわれちゃえ』
私がああ言ったから、あんなにもひどい内容の夢を見たんだ。
私は目尻ににじんだ涙を指でぬぐうと、ふたりに謝る為に着替えもせずに自室を飛び出したのだった。
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