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25.どこまでも続く空を見上げて3 ※

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 ――夜になった。
 明日に備えて早く寝るように、と言われていたけれど、なかなか寝付けなくてぼんやり窓から星を見上げる。

 シド大司教が別れ際に言った言葉を、なんとなしに思い出した。

『……君の大事な記憶を奪ったこと、本当に申し訳なく思っている。償いではないが、何か辛いことや苦しいことがあれば言ってくれ。全力で対処しよう。信用してもらうのは難しいかもしれないが、僕は君の味方で在り続ける』

 結果的に記憶を閉じ込めたおかげで今があるから、もういいよ。あと敬語はやめてほしい。と言っても、シド大司教は『……善処する』と納得しない顔のまま部屋を後にした。
 みんなそれぞれ幸せになったけれど、時間をかけないと埋められないものもあるんだなと、ため息をつく。

「人って難しいな……」

 呟きは誰もいない部屋に虚しく溶けていく。
 はあ、と息を吐いて、灯りを消して横になろうとしたとき――コンコン、と小さなノック音が聞こえてきた。

 こんな時間に誰だろう。そう思って扉越しに「だれ?」と問いかける。
 少し間を空けて小さな声で『……俺』と聞こえた瞬間、わたしは急いで駆け寄って扉を開けた。

「ローウェン!」
「おわっ、とと……」

 嬉しくて、たまらなく嬉しくて、彼に抱きつく。
 石鹸の香りがして、胸元に頬をすりつけた。

 久しぶりに会う彼はなんだか違って見えて、とてもかっこよく思える。
 もっとちゃんと顔が見たいなと思って見上げたわたしに、ローウェンが触れるだけの口付けを落とした。

「……悪い。あまりに可愛くて」

 ドクン、ドクンと鼓動が高鳴る。
 ローウェンの声が胸に染み込んで、心臓を握り締めてくるみたい。死んでしまいそう。
 ああ、好き。好きすぎておかしくなるくらい好き。うまく呼吸ができない。わたし、すごい緊張してる。なぜだか急に恥ずかしくなって、ローウェンから身体を離す。

「エレノアに早く会いたくて、巡礼終わって速攻帰ってきた。灯りが漏れてたから……寝る前に顔見れたらなって」
「……わたしも会いたかった。すごく、会いたかった」

 うん、とふやけたように笑うローウェンに、つられたようにわたしも笑う。

「あ、と……寝るところだったよな? そうしたらまた明日――」

 立ち去ろうとするローウェンの服を、ぎゅっと掴んで引き止めた。
 この時間がもう終わってしまうのが寂しい。でもローウェンは疲れてるだろうから、ゆっくり休んで欲しい。相反する気持ちがせめぎ合う。
 わたしすごいわがままだ。絶対ローウェン困ってる。
 引くに引けない手をどうしようかと火照った顔で考えあぐねていると、その手をぎゅっと握りしめられた。

「もう少し、あとちょっとだけ……一緒にいてもいいか?」

 コクリと頷く。
 優しく包み込まれた手に唇が触れて、「おわあ!?」と変な声が出た。あまりに変な声に自分でも驚く。

「ろ、ローウェンなんか……なんかすごい、レティシアを前にする猊下みたい……!」
「う……嫌だった?」

 縋るような目で見られて、今度はわたしが「う……」と声が出た。

「い、嫌じゃない……でも、あの、待って……なんか、その」
「……?」

 手を繋いだまま、ローウェンがわたしの言葉を待つ。
 飛び出しそうな心臓を空いている手で抑えながら、必死に言った。

「久しぶりのローウェンが、かっこよくて、すごい緊張して……その、心臓が爆発しそうになってて……いっぱいいっぱいなの」
「――」

 思えば、ローウェンに『好きだよ』って言われたすぐ後に、記憶が無くなったんだ。更に1週間前に会ったときには意識もぼんやりしてたから、すごい久しぶりにちゃんと再会した。どうしよう、髪とか変じゃないかな。レティシアに梳かしてもらったけど、わたし癖っ毛だからなあ。いま着てるのだって、普段着る服より豪華ではあるけど寝間着だし、寝る前で顔も変なことになってるかも。そうだ、確認してなかったけど、たんこぶどうなったんだろ……っ!
 慣れない感情が爆発して渦巻いて胸の内側でどんちゃか踊ってるみたいになってる。落ち着いてよ、もう!

「……俺も」
「え?」
「俺もエレノアが可愛くて、たまらなく好きで、いつも心臓がすごいことになってる」

 ほら、と繋げた手がローウェンの胸に誘導される。
 ドクンドクンと早い鼓動。わたしの心臓の音と同じくらいの早さに、なぜだか顔が赤くなる。

「またお前に会えて嬉しい……こうやって気持ちを確かめ合えることが、本当に……嬉しくて」
「ローウェン……」

 もう一度、今度はローウェンからぎゅうっと抱きしめられた。
 お互いの鼓動が混じり合うみたいで、恥ずかしいけど心地いい。わたしもローウェンの首に腕をまわして、精一杯抱きしめ返した。

「巡礼行ったって、わたし知らなくて……ローウェンのことずっと探してた」
「そっか。1週間前に会ったときに一応伝えたんだけど、お前眠そうだったからな」

 そうだったのか。ローウェンはちゃんと言っておいてくれたんだ……全然覚えてない。うう、魔性のベッドの威力こわい。
 ローウェンはわたしを抱き上げて、ベッドまで運んでくれた。ふかっとした心地よさに恐れおおのく。

「また寝落ちしてもいいから、話をしよう」

 横になったらこの時間が終わってしまいそうで、わたしはベッドに座った姿勢で頷き返す。
 ローウェンもベッドに腰掛けると、わたしの頭を撫でた。
 心地よさと温かさにうっとりするけど、それ以上にぞくぞくとした感覚に陥る。

「今日、ね。教皇猊下から色々な話を聞いたの」
「へえ。お前の悪影響になってないといいな」

 爽やかに笑いながら言うけど、ものすごい刺々しさが含まれている気がする。
 レティシアへの猛攻を思い出し、そのことかな……とひとりで納得した。

「わたしを聖女として守ってくれるって言ってた。聖女は大変そうだけど、なんとかがんばる」
「うん。お前ならできるよ」
「あとローウェンと一緒にいられるように、対策を聞かせてくれた」
「……」

 ぴたりと、頭を撫でていた手が止まる。

「養子縁組の話も?」
「聞いた」

 はあ―――……と大きなため息が零された。
 顔を両手で覆い隠し、地獄の底にいるような顔になっている。シド大司教と同じだ。
 
「いや……お前と一緒にいるためになんでもするって言った。確かに言ったけどさ……俺、教皇猊下になにかしたかなあ……」

 遠い目をして彼方を見るローウェン。
 ものすごく嫌そう。

「でも、嬉しかった。そのために聖騎士になるんでしょう? ローウェンも一緒にいたいって思ってくれてることが、すごく嬉しくて」

 締まりのない笑顔を向ける。
 ローウェンはわたしと一緒にいるために、巡礼をして聖騎士になって、とてつもなく嫌であろう縁組もしてくれる。
 それならわたしも、ちゃんと聖女としてがんばらないと。マナーとか採寸とか教育係とか、ちょっと怖いけど全部しっかりやり遂げてみせる。
 目的がローウェンに関係することなら、わたしはどれだけ大変なことでもがんばれるんだから。

「……当たり前だろ。お前の側にいられるなら、俺は――……」

 言葉を切り、片手で口元を抑えわたしから視線を逸らす。
 どうしたんだろう? と訝しんでいると、なにかを決意した様子で顔を赤くしながら、わたしをまっすぐ見据えた。

「本当は、ちゃんとしてから言おうと思ってたんだけど……っ!」
「う、うん」
「俺、お前に見合うような男に絶対なるから……だから、そうしたら!」
「うん」

 深く息を吐いて吸い込んで、ローウェンはわたしの両肩を少し震えた手で掴み、口を開いた。



「――俺と、結婚してほしい」



 驚いて、固まる。
 確かに昼間はそんな想像をした。したけれど、ローウェンから口にされるのとでは全然違う。
 気恥ずかしさ、嬉しさ、喜びが一斉に襲いかかってくるみたい。
 真剣な目でわたしの答えを待つローウェンに見惚れて、見られていることに顔が熱くなって、嬉しくて目が潤む。

 震える唇を一生懸命動かして、わたしは頷きと共に返事をした。

「……はい」

 身体が喜びに打ち震える。
 幸せ――すごく、幸せだ。こんなふわふわ夢のような、それでいて刺激的な幸せは、この先ずっと忘れられない。

 どうしよう。今とても、ローウェンと口付けをしたい。もっとローウェンと深く繋がりたい。
 この幸せが嘘じゃないって、刻みつけてほしい。
 ローウェンを見上げたら、泣きそうに、喜びを噛み締めてるみたいに、色んな感情がごちゃまぜになった表情をしていて。
 愛しさが胸を突き刺して、身体が勝手に動いた。

「ん……」

 ローウェンの唇に触れる。
 柔らかい感触に、胸が少し満たされる。
 顔を離すと、ローウェンは少し驚いたように目を丸くしていた。

「大好き。いちばん、いちばん大好きだよ。ローウェン」
「エレノア……俺も、お前を愛してる……世界で、一番……っ」

 言い終えるやすぐに、ローウェンの唇がわたしの口を塞ぐ。
 触れるだけの口付けでは物足りなくて、舌を絡み合わせた。互いにもっと奥まで、息が止まるほどに長く、深く絡ませようと舌を動かす。

「ん、ふ……んん……っ」

 すごく激しい口付けに、溺れてしまいそう。
 わたしの背中と後頭部を支えてくれる彼の手に力が込められ、ぐっと引き寄せられる。身体中のどこかしこもローウェンにぴったりくっついて、熱くて、もどかしさが募るようだった。

 舌が痺れるまで重ね合わせながら、そのままベッドに押し倒される。
 ふわりとするベッドの感覚と、ギシリ、と軋む音が、これから先を想像して身体を熱くさせた。

「もう、耐えられそうにない……お前を抱きたい」

 切羽詰まった表情で、ローウェンはわたしの唇を舐めながら許可を求めてくる。
 そんなの、決まってる。

「わ、わたしも……ローウェンにいっぱい抱かれたい……」
「エレノア……!」

 乱れた息に、情欲に満ちた水音が重なって、部屋を満たす。
 喰らいつくような口付けを交わしながら、ローウェンは自分のシャツをもがくように脱ぎ捨てる。
 3度の身体の交わりでも見たことのない彼の露出に、心臓が跳ね上がった。
 鍛え上げられた上半身と、厚い胸板に気持ちが昂ぶる。

「ふ、……ぁ、ん……ロー、ウェ……まっ」

 身体が熱くて熱くて、変。
 はあはあと息を切らしながら、ローウェンの求める口付けに必死に応える。
 熱情を伝えるような一回り大きくて厚い舌が動き回る度、興奮が増して仕方がない。

 ローウェンはせっつくように、わたしの胸を服の上から揉み始める。
 訪れた大きな快感に耐えきれず、びくんと身体が跳ねた。

 わたしの熱く火照った身体よりも、更に熱い体温が胸をまさぐる。
 乳首ごと手で揉み込まれ、腰がびくびくと痙攣したみたいになった。

「ま、って……なんか、へん、……あっ、んん……!」

 身体をくねらせながら、必死に堪える。
 ローウェンの乱れた呼気がかかる度、手や口が触れる度、視線を感じる度にやたらと身体が反応してしまう。おかしい、変だよ。全身が敏感でどこかしこも気持ちがいいなんて。

 ようやくローウェンが唇を離し、わたしの寝間着を脱がそうとボタンに手をかけながら問いかけてきた。

「はぁ、は……変、……変って?」

 自分の服は荒々しく脱ぎ捨てたのに、わたしを脱がすときはひどく丁寧な手付きに、胸がじんわりとする。
 シーツをぎゅっと掴みながら、息も絶え絶えにわななく唇を動かした。

「なん、だか……すごく、気持ちよすぎて……か、感じちゃって……からだ、あつくて……」

 わたしの言葉を聞いて、ローウェンがふるいを収めるように息を吐く。
 青い瞳に燃え上がるような情欲の色が見えて、ゾクリと悦びを抱いた。

「もしかして、もうイキそう?」
「……っ」

 ローウェンにそう聞かれ、急激に恥ずかしさが込み上げる。
 余裕のない彼に伝わるか分からないくらい小さく、コク、と頷いた。

「……可愛い」

 赤くなった頬に唇が触れ、ぴくんと肩が揺れる。
 そのまま唇は左耳へと移動し、べろりと舐められた。水音が至近距離から聞こえて、「ひぁっ!?」とおかしな声が出る。
 くすぐったい――それ以上に腰が跳ねてしまう。
 それなのにローウェンは耳たぶに吸い付いたり、形をなぞるように舌先を動かしたかと思えば、耳孔に舌をねじ込んでくる。

 更にははだけた服に手が滑り込み、直で胸を愛撫しはじめた。
 太くて硬い指が乳首の先端を転がす度、くぐもった声が漏れてしまう。グリグリと硬さを確かめるように乳首を弄りながら、ローウェンの大きな手が柔らかい部分を包んでいる。

「んぁ……う、ん……っ!」

 音と刺激の荒波が押し寄せ、耐えることなどできそうになかった。

「ぁ、ああ……っ!」

 シーツを引っ掴んで、背中を反らす。
 腰が揺れてしまう。恥ずかしくてたまらなくなる。目元にじわりと涙が滲んだ。

「たまんねえ……はぁ、可愛い……エレノア、俺のエレノア……」
「んぅ、んっ……」

 達したわたしをあやすように、涙を唇で拭ってもう一度口付けを交わす。
 今度は呼吸さえ奪うようなものではなく、唇に吸い付いては離すようなものだった。音を立て、何度も吸い付きあう。それを繰り返しながら、ローウェンはわたしの背中に腕をまわして抱き寄せるように上半身を起こすと、ワンピース状の寝間着を取り払った。
 ローウェンの腕に体重をかけたくなくて、自分でも手を後ろについて体制を維持する。

 裸に剥かれ、それを見られていると思うと無性に隠したくなる。
 両手を後ろにまわして身体を支えていたわたしの胸に、ローウェンがおもむろに吸い付いた。乳首をべろり、と舌で味わってから、音を立てて吸い上げる。

「ああっ、! ぁ、や……!」

 太ももがびくっとお腹に寄せられる。
 この体制は、まるで彼に自分から胸を見せつけているみたいで、恥ずかしい。
 でも倒れようにも、ローウェンの腕がまだ背中にまわったままで、身動きが取れない。

 ローウェンは唾液をなすりつけるように、丹念に乳首を舌で舐めあげる。
 同時にくびれをなぞられ、足がもぞもぞと動いてしまう。

「あっ、あ……ぁ、!」

 ローウェンに、身体をたくさん触られている。見られている。
 ローウェンが、わたしで興奮してくれている。

 そのことを思う度に、下腹部が熱くなって秘所がひくついてしまう。
 自分でも濡れているのが分かる。
 触ってほしい。ローウェンの指で撫でてほしい。いっぱい掻き回してほしい。
 でもそんなはしたないことを言って、ローウェンに嫌われたらどうしよう。

 前はちゃんと言えたのに、今はためらってしまう。

「ん……んあ……っ」

 ローウェンは乳首をみながら、空いている手でわたしの太ももを撫でた。
 熱くて大きな手のひらが這う感覚に、期待が胸をよぎる。
 太ももの内側に手がまわり、肉付きを確かめるような手付きで揉まれる。

 違う、もうちょっと……もうちょっと上……。

 焦れる気持ちのままに、腰を動かす。
 ローウェンの手に当たるように腰を落とすけれど、太ももに触れる部分が変わるだけ。
 うう、とじれったさで泣きそうになる。

「……言って」

 ローウェンは乳首から唇を離すと、わたしをまっすぐ見つめた。
 彼の濡れた唇とわたしの起ち上がった乳首の先端を、唾液の糸が繋いでいる。秘所がきゅうっとなった。

 荒々しい息遣いのままに、ローウェンはもう一度言う。

「エレノアがしてほしいこと、俺に教えて。お前の口から聞きたい」
「う、あ……」

 ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
 恥ずかしい――すごく恥ずかしい。でも太ももを撫でるローウェンの手が、ほしい。ほしくて仕方ない。
 わたしは意を決して、口を動かした。

「あ、足の……間……ローウェンに触って、ほしい……」

 恥ずかしさを堪えて言い切ったわたしの口に、ローウェンが口付けをしてくれる。
 背中を支えていた腕が肩を引き寄せ、わたしはローウェンに横抱きされるような体制で唇を寄せ合った。
 両手が自由になり、どこに置いたらいいか分からず胸の上に置く。

 ローウェンの右手が太ももからヘソの下へと移動し、そのまま流れるように秘所へ触れた。
 たくさん濡れているのが彼に伝わってしまう気恥ずかしさと、快感への期待が高まる。

 陰核を撫でられ、「んあ……っ」と声を出した後、彼の指がすっと離れ、入り口を浅く擦った。
 奥がズクズクと重く鈍く熱を孕む。

「や……挿れて、ぁ……ローウェンの指、中に……」

 顔を伏せながら言うわたしに、深く息を吐いた音が聞こえてくる。
 自分のみだらさに顔から火が出そうになって、両手で覆い隠した。

「ローウェン……ごめ、なさ……き、嫌わないで……」

 小さくなるわたしに、彼は両手で覆いきれなかった額に熱い唇を当てる。

「なるかよ。むしろねだられた方が、すげえ興奮する……」
「え……?」

 顔を上げたわたしの唇がまた塞がり、ローウェンの舌が入り込む。
 求められるがままに舌を合わせる。宥めるようにゆったりとした口付けに酔いしれていたわたしは、秘部に押し入ってきた指に喉を反らした。

「んあ……っ! あ、あーー……!」

 2本の指が膣内を擦っただけで、また軽く達してしまう。
 ぎゅうっとローウェンの指に吸い付く感覚。その後に短い間隔で収縮を繰り返し、無意識で浮かべていた涙が頬を伝った。

 胸が激しく上下する。
 焦点の合わない目でぼんやりと顔を上げたら、乱れるわたしを熱に浮かされたような目がまっすぐに見下ろしていて、また心臓が大きな音をひとつ鳴らした。
 頬が上気して、汗が流れて、すごく色っぽいローウェンに目眩すら起こしそうになる。

「あ……ん、ふ……」

 ローウェンの指が、また動き始める。
 冷めない熱が幾度も高まろうとする。

 快楽に身を捩るわたしは、視線を落とした際に見慣れない上半身の裸を見て、また彼の指を締め付けてしまう。
 汗ばんだ身体に抱かれ、心臓がひっきりなしに胸の内側をドンドンと打つ。

 触れてみたくなって、ためらいがちにローウェンの胸板へ手を這わせた。
 熱のこもった、筋肉質な身体の感触に夢中になって、自分と違うところを色々触ってみる。太い首筋、がっちりした肩、胸の合間にある溝、割れたお腹――そして小さく突起した赤い部分が可愛くて、ローウェンがわたしにしたように舌先で舐めてみた。

「ん……」

 ローウェンの切なげな声に、下腹部がきゅんと反応する。

「くすぐっ……ぁ、くすぐったかった……?」

 指に攻め立てられながらローウェンを仰ぎ見ると、彼は少し笑って「もっと触ってくれ」と言った。
 嬉しくなって、身体をひねってもう一度ローウェンの乳首を舐める。舌に硬い突起が当たって、なんだか気持ちいい。ローウェンがよくわたしの乳首を舐めるのも、同じ気持ちからかな。彼の身体を舐める度、好きって気持ちが膨らんでくる。もっと舐めたい。
 もう片方は人差し指で形を確かめるように触れてみる。小さな芽を指の腹でいい子いい子して、撫でてみた。

 ローウェンの身体をいじるのが楽しくて、触らせてくれることが嬉しくて、すごく興奮して、秘部が何度もヒクヒクとしてしまう。
 その度ローウェンの指が狭まる肉壁を擦るから、息が乱れて快感で苦しくなった。

「あ……ふぁ……んっ、ん……」
「っ……う、」

 わたしの秘所から出し入れされる指の音、ローウェンの乳首を舐めて吸い付く音。どちらのものかも分からない荒い呼吸音。
 気持ちいいが詰まった音の中で、わたしはもう一度身体を仰け反らせた。
 ずっと達してるのに、熱が収まる気配すらない。

 脱力するわたしをローウェンがベッドに横たわらせ、真正面から見つめてくる。
 欲情しきった彼の表情に、魅了されたように無限の愛しさが湧き上がってきた。まるで昇るようで落ちるような。愛しくて切なくて怖いくらい。

「もう無理、挿れたい。挿れるぞ」

 余裕のない口早な言葉に、たまらずローウェンの首に手をまわして、答える。

「挿れて……もっと、ローウェンがほしい……」

 待ちきれなくて、足を擦り付けた。
 ローウェンはせわしなくズボンを下ろし、これ以上ないほど大きく腫れ上がった肉棒を取り出す。
 入り口に先端が当たって、たまらず切ない息がこぼれた。

「ん、く……」
「あ……っ」
 
 ぐぐっと押し込まれていく。
 眩むような圧迫感。満たされる膣内。肉壁を擦る男根の存在に、身体が悦んでいるのが分かる。
 嬉しい。ローウェンが入ってきてる。下腹部だけでなく、心も満たされる。

 ローウェンはわたしの太ももを持ち上げて大きく開くと、更に腰を沈めた。

「あっ、ああ……! あっ、」

 強い刺激に反応したのか、達してしまったのかも、もう分からない。弓なりに身体を反らして、ただ貫かれ喘ぐだけ。
 ぐ、ぐ……と満たすものが、最奥に辿り着く。
 ローウェンは足から手を離すと、わたしの頭を抱えるように覆いかぶさってきた。

 彼とくっつくのが嬉しくて、わたしもなるべく多くの肌を密着させる。
 汗をかくほど熱いけど、ローウェンの体温はただ心地よかった。

「……気持ちいい。すごい幸せ」
「もっかい言って」
「すごい幸せ?」
「その前」
「気持ち、いい?」
「それ」

 身体を起こしたローウェンが、汗ばんだわたしの額に張り付いた髪を払うと、にっと口角を上げる。

「もっと言って」
「え? あ――ぁ……っ!」

 ローウェンのものが引き抜かれそうになったと思えば、ぐうっとまた最奥まで挿れられる。
 すごくゆっくりな動作ではあったけれど、達し続けて敏感になった身体には充分すぎるほどの刺激だった。

「んあ……あ、っ!」

 緩慢な動きに喘ぐわたしの耳元で、ローウェンが囁く。

「エレノアが気持ちいいって言うの、もっと聞きたい。聞かせて」
「ふ、ぁ……」

 ゾクゾクとした囁きに、また中でローウェンを締め付けてしまう。
 だというのに、唇を耳に触れたままローウェンは動きを止めない。止めてほしいわけではないけど、同時に耳への愛撫をされるものだから、もはや快感を受け止めきれない。
 ちゅ、ちゅと耳に口付けされ、また舌でなぶられる。

「ロー、ウェ……あ、……き、もち……い……!」

 切なく苦しげな吐息が、耳元で聞こえてきた。
 その言葉を言った途端、快感がぶわりと胸から全身に広がっていく。
 腰の動きが我慢できない、というように早くなる。パチンパチン、と肌の打ち合う音。擦れ合う刺激に切なさが上り詰めて、ローウェンにしがみついた。

「あっ、あ! ぁ、ん、ああ……!」

 身体が縦に揺さぶられる。
 ローウェンの体躯に押しつぶされた胸の頂きが擦れて、膨れ上がる欲がまた爆発した。

 顔を寄せたローウェンに誘われるまま、口を開いて彼の舌を受け入れる。
 下半身の快感を伝えるように、互いに舌を絡めては吸いつき合う。頭が茹だって、おかしくなりそう。
 どこもかしこもローウェンと深く繋がって、溶け合って混ざり合うような感覚に酔う。

「ん、ぁ……ふ……気持ち、いい……」

 口付けの合間に、自然とその言葉がついて出た。

「は……俺も……」

 ギッギッとベッドが軋む。
 青い綺麗な瞳を見つめながら強く突かれるのは、あまりに気持ちよすぎてどうにかなってしまいそう。
 わたしが好きな一番奥を刺激されながら、息つく間もないほど濃厚に唇を塞ぎ合う。
 何度も軽く達しては、ローウェンのものを甘く閉じ込めようとした。

「あ、ぁあ……んっ、あ、」

 脳がクラクラする。
 息が苦しいのに、ローウェンとの口付けを止めたくない。

 断続的に鳴り続ける、肌を打ち合う音と鼓動の早い音。重なって聞こえてくるみたいだ、なんて思った直後、大きな波が迫ってくる予感を抱いた。
 筋肉がその到来を待ち望んで、強張っている。

「んぁ、イっ……あ、イッちゃ……んう、」

 必死に伝えようとした唇を抑えつけられ、それでも届いたのかローウェンがより一層強く早く奥を突き始める。
 大きく揺さぶられる身体は、もうローウェンにしがみついていないとどこかへ行ってしまいそうだ。

 今までで一番、膣内が収縮するのが分かった。
 頭が真っ白になるほどの快感が身体中を走り、ローウェンに強くしがみついて唇を押し付ける。

「ぅん――――……っ!」
「ん、ぐ……、は……」

 強い肉壁の圧迫に、ローウェンが何かを中で吐き出したのが分かった。
 じんわり広がる温かさを、力が抜けた身体で感じとる。
 奥に感じる熱に、うっとりした。これがずっと欲しかったのだ、と身体が悦んでいるよう。

「は――……、んっ……」

 互いに達しても、すぐには動けなかった。
 汗を流しながら、余韻に浸るように口付けを再開する。いたわりあうような、乱れた息を整える合間に交わすような口付け。

「やべぇ……ん……離れたくないな……」

 ローウェンの心からの吐露に、私も、と唇を寄せる。
 口を重ね吸い合いながら、ローウェンがのそりと身を起こすと、蕩けるように私を見ながら言った。

「夢じゃ、ないよな……?」
「夢じゃないよ」

 いや。やっぱ、夢かも。
 だってこんなに満たされて、幸せで、ローウェンが好きって全身で伝えてくれて。
 いっぱい口付けしてくれて――いっぱい愛してくれる。

 うん。もういっそ夢でもいい。醒めない夢ならそれでいいや。

「ローウェン……ここにいて、どこにもいかないで……」
「っ、」

 甘えるように抱きついて、頬にちゅっと音を立てて唇を寄せる。
 少しだって離れたくない。

「……あ、明日は……お前朝から……」

 ちゅ、と首筋に口づける。
 明日があるのは幸せだけど、今はもっと幸せな今夜を続けたい。

「――……っ」

 ローウェンがしたみたいに、耳たぶを唇で挟んで舐める。
 石鹸と汗と、ローウェン自身のいい香りに満たされる。その香りに染まりたくて、耳の下、顎のあたりを舌で這わして、コクっと喉を鳴らした。
 きゅう、と意図せず中に入ったままのローウェンを締め付ける。

「ぁ、ん……」

 小さく喘いでしまった。
 途端、ローウェンはがばりと私の肩を掴んで組み伏せ、真顔で言う。

「――よし。明日は2人で怒られようか」

 開き直った姿がおかしくて、ふはっと笑ってしまった。


 その後はまた口付けを続けて。しばらくはお互いの身体を触り合いながら、話をした。
 夜も深くなっていったけど、一度口付けをすればもう止められなくて、熱が灯った身体をまた貪り合って――眠りについたのは、どれぐらい後のことだったか。記憶が定かではない。


 けれど太陽の光が眩しくて、わたしはいつもより睡眠時間がまったく足りていないにも関わらず、スッキリ目覚めた。
 隣で眠るローウェンは、巡礼の疲れもあったのだろう。わたしが起き上がったことにも気づかず、健やかに寝息を立てている。
 愛おしい姿にそっと頭を撫でた。

 昨日はカーテンを閉め忘れたから、光がこれでもかと窓から部屋に入り込んでいる。
 もう少しローウェンを寝かせてあげたくて、カーテンを片側だけ閉めた。
 残った片方の窓から、空を見上げる。

 ずっとずっと、どこまでもずっと続く広い空。
 とても綺麗で、世界を美しく輝かせている。
 降り注ぐ太陽の光を受け止めながら、わたしは今日も輝く朝に微笑みを零す。

「ん……」

 身じろぐ気配がして、ローウェンを見た。
 寝ぼけまなこがわたしを捉える。空と同じ色をした、わたしの大好きな瞳と見つめ合う。
 裸だったことが恥ずかしくなって、カーテンで体を隠した。

「おはよう、ローウェン」
「……んー……おはよ、う……?」

 手の甲を瞼の上に置いて、夢の世界にまた旅立とうとしている。
 そんなローウェンの様子に思わず笑みをこぼした。
 寝起きの彼を見れるなんて、すごく幸せな朝だ。

「まだ寝てて大丈夫だよ」
「うん……」

 朝は弱いのかな。
 甘えん坊みたいな声を出すローウェンが珍しくて、楽しくなってくる。

 不意に両腕をわたしへ向けて伸ばしてきた。
 なんの意味だろうと少し考えて、あ、と思いつく。

 裸なのが気恥ずかしいけど、わたしはローウェンの腕の中に入ると、一緒になって寝そべった。
 ぎゅっと抱きしめられたかと思えば、そのまま寝息を立ててしまう。もう一度起きる気配はない。

 わたしは小さく笑って、ローウェンの胸に頬を寄せた。
 とくん、とくんと穏やかな音が聞こえてくる。
 心地よい温もりの中、微睡むわたしはゆっくりと瞼を閉じた。

 ――そうして、わたしは幸せな夢を見続ける。

 いつまでも いつまでも。

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