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9.聖女の真実【ローウェン視点】 ※
しおりを挟む「あっ、あ、や……奥……奥に、ローウェンの……あたって、」
シーツを握りしめ喘ぐ少女の最奥を、亀頭が押し上げる。
すっかり中で快楽を拾うことに慣れてしまった少女は、突かれる度に俺のモノを甘く切なく締め付けた。
濡れた蜜壺を眺めながら、乱れた呼気を整えることも忘れて、ひたすらに穿つ。
「ふ、あ……! あ、もう……や、きちゃう……!」
目尻に涙を浮かべ、俺に手を伸ばす。
自身が絶頂を迎えるときには、より密着することを俺に求めるようになった。こそばゆさを感じつつも、求められるがまま彼女の身体を抱き、頬を流れる涙を唇で拭う。
「ローウェン……」
赤く染まった顔でとろけたように名を呼ばれると、無性に口付けたくなる。額に、頬に、髪に、耳に――少しでも気を抜いたら唇まで奪ってしまいそうだ。理性を総動員させて耐える。それに気づいているのかいないのか、口付けの雨を心地よさそうに受け止めて、うっとりとした無防備な顔で見つめてきた。
「もうイキそう?」
「……うん」
こくんと頷く仕草が愛らしくて堪らない。期待に満ちたその眼差しも。
もう一度、綺麗な白銀の髪に唇を落とし耳元で囁いた。
「じゃあちょっと激しくするな。痛かったら言ってくれ」
抱きつく少女を片腕で抱えながら、もう片方の手で少女の膝裏を持ち上げ律動を再開する。
蠢く中を擦り上げながら、彼女が一際良い声で鳴く箇所を重点的に攻めた。
同時に身体を少し起こして、汗で濡れた肌を這うように舌で舐める。鼻先にあたった胸の頂を舌全体で包み、垂れた唾液と共に吸い上げた。
「ん、あっ――、あ、……!」
鈴が鳴るような甲高い喘ぎと共に、膣内が収縮する。
その圧迫感に堪らず呻き声を上げた。
「っ、う……!」
少女の身体が弓なりに反らされる。
小刻みに揺さぶった後、すぐに抜き去り薄い腹の上に白濁をぶちまけた。
「ぁ……」
身体が弛緩しベッドに沈む少女は、己の身体の上にかけられた生暖かい液体を、とろんとした目つきで見つめている。
不規則に吐き出される呼吸を整えながら、汗で張り付いた前髪を退け頭を撫でた。少女は目を細め、手に頬を擦り寄せてくる。ああ、本当に可愛い。
「大丈夫か?」
「うん……塔に、戻らないと……」
「ちょっと待て、いま身体拭いてやるから――」
ベッドを降り、用意していた水桶とタオルを持ち上げる。
手を入れ、冷えた水温を魔力でもって温めた。人肌ぐらいまで温度が上がったところで、タオルを浸けてぎゅうっと絞る。
そして振り向いたところで、少女が小さな寝息を立てていることにようやく気づいた。
安心しきったような緩んだ顔で、すうすうと胸を上下させている。
「……寝顔も可愛いな」
思わず綻んだ顔で呟いて、はっと口に手を当てた。
顔を上げれば、優雅に紅茶を啜る聖女が視界に入る。華やかなバラが飾られたテーブル、窓から降り注ぐ光に照らされたプラチナブロンド、姿勢ひとつ乱さず目を伏せ茶を嗜んでいる――まるで、そこだけ世界が切り取られたようだ。乱れた男女の行為が隣で行われていたとは到底思えない。
「睡眠姦は盛り上がりに欠けるから、あまり好きではないけれど……したいなら止めないわよ」
「するか!」
叩きつけるように言い返してから、慌てて少女を見る。
俺の声に起きた様子はない。そのことにほっとして、手に握ったタオルで身体を拭く。
聖女の前で3日に一度抱き合う。その命令を忠実に守り続けて、もう3回目の行為を終えた。
未だに抵抗は残るものの、少女の肌を見てしまったらタガが外れてしまう。終わってからひたすら繰り返す自己嫌悪にも、慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。
ベッドの脇に脱ぎ捨てられたワンピースを手繰り寄せ、ぐっすり寝入る少女を起こさないよう気をつけながら着せる。
そして風邪を引かないようシーツをかけ、優しく頭を撫でた。
こいつの頭を撫でるのが、好きだ。
はじめて撫でたとき、目を丸くして硬直していた。次に撫でたときははにかんだように頬を赤くしていた。撫でれば撫でるほど心地よさそうに身を委ねていく。懐いていく様に、夢中になった。
きっとこれから、たくさんの優しさを受けて、多くの幸せに囲まれて生きていくのだろう。そうであって欲しいと、心から思う。
――だからこそ、こんなことはもう終わらせるべきだ。
俺は少女の頭から手を離すと、意を決して聖女に向け言葉を放った。
「……もう、いいだろ」
部屋の空気が変わる。
聖女は微笑みを浮かべたまま微動だにせず、紅茶に視線を落としていた。
何かを答える気配はない。だが構うことなく、俺は彼女へ食いついた。
「あんたとこの子の取引内容は知らないが、もう証明は済んだだろ。続ける意味なんてない」
以前、この行為が始まるときに彼女は言っていた。
『前に取引したでしょ? 私のためになんでもしてくれるって。それが嘘ではないと証明してほしいの』
それが今の状況に繋がっているのなら、3回もすれば十分なはずだ。
「これ以上、この子の汚点になるようなことはしたくない。きっとそのうち、いい男が現れて結婚して……幸せな家庭を築くんだろう。なのにこんなことを続けてこの子が傷ついたら、」
「――貴方、何を言ってるの?」
冷淡な声が、俺の言葉を遮る。
聖女は信じられないものを見るような目で、俺を見ていた。絶えず浮かべている微笑すらも取り払い、凝視している。
「な、なにか変なこと言ったか」
たじろぐ俺に、彼女は眉を顰めあからさまなため息を吐いた。
「ああ……物知り顔な癖して、貴方何も知らないのね。忌み子として中途半端に首を突っ込んでる人間……つまりはそういうことね」
「なんだよ、中途半端って――」
聖女は俺の側で寝息を立てたままの少女へ、視線を移す。
少し思案した後、カップをテーブルに戻し観念したように呟いた。
「……いいわ、教えてあげる」
椅子から立ち上がった彼女は、バルコニーに続く窓から外を眺める。
厚く灰色の雲に覆われた狭苦しいソラを見上げ、口を開いた。
「『聖女』は希望の象徴。民の、国の光――そして容れ物でもあるのよ」
「容れ物……?」
彼女は俺へ振り返る。
信徒が『美しい』と称される顔に、完璧な微笑みを浮かべて。
「ええ。本来ならとっくに終わっている世界を、延命させる道具。人が平和に生きていくための生贄――それが聖女なの」
声が涸れ、は、と吐息が漏れた。
終わっている世界。生贄。物騒な単語が並べられているのに、目の前に佇む聖女はなんでもないことのように言ってのける。
とてもではないが、正気を疑うような台詞だった。
「聖女っていうのは、魔神を封印し続ける強大な魔力を持つ人間のことじゃないのか……?」
そういうものだと、幼い頃より語られていた。子供の絵本でも教会の教えでも、そう語られている。
およそ国全体の認識で間違いないだろう。実際に聖女が行った魔法はどれも高度なものだった。その力で魔神を封印し続けるのだと。
彼女の背後――窓の外には、遠く離れた場所で鎮座する魔神の姿がある。胸には空洞があり、心臓が抜き取られ祀られている。聖女は魔神の心臓が動かぬよう封印し続ける役目を担っているのだと……それは誰もが知っている有名な話だ。
だが彼女は肩をすくめると、自らの胸に手を当て言い放つ。
「封印なんて必要ないわ。魔神の身体はとうに死んだ状態だし、動力源である心臓は『ここ』にあるもの」
「――」
驚く俺に背を向け、彼女は遠い場所にいる魔神を窓越しに手でなぞった。
「どこから話しましょうか。……そうね、アレが本当はなんなのか。そこから話さないとね」
そう言って彼女は、この世界が――いや『世界にたったひとつ残された国』が隠してきた真実を話しはじめた。
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