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休み始めた翌日、陛下から王子に婚約者変更のお許しが出たらしい。
喜んだ王子が、キャロルと愛を語らいに家に来て少々さわがしかった。
王子はキャロルの浮気(にしか見えない行動)を心配して、ちょっと精神的に不安定だったのかもしれない。だからキャロルの気を引くため、盛大にお祝いをしようとしたのだろう。
ものすごくいろんな料理の匂いがしたもの……。
そんな私がようやく回復し、お店のことに専念するため学校を二日ほど休んだ時だった。
あの正義感あふれる公爵令嬢が、キャロルと他の男性がふしだらなことをしていたと告発したそうだ。
なんでも、公爵令嬢の従者と口づけしたのを目撃したのだとか。
王子との婚約が内定し、公表間近だったことを知っていた公爵令嬢は、早く話を立ち消えにさせて王子の名前を汚さないように、キャロルを強引に引き離したかったのだと思う。
王子は急にキャロルに冷たくなり、罵ったそうな。
「で、実際はどういうことなの?」
親しい人に冷たくされて、しおれた様子のキャロルに聞けば、どうしていいかわからなくなったキャロルはあっさりと教えてくれた。
お菓子を届けに来たと公爵令嬢の従者に言われ、受け取った時に一瞬抱きしめられたのだそうな。
それを何人かの人に見られ、していないのに口づけをしたと決めつけられたらしい。
「ああああ……」
完全に罠にかけられたようだ。
展開が予想以上に速い……と思っていたら、陛下の行動も早かった。
話を耳にした陛下は、こんな問題のある家との縁談は、望ましくない。婚約の話を無かったことにしたいと望んだ。
王子も浮気を複数人に目撃され、完全にキャロルから心が離れたのか、その決定に異は唱えなかったという。
そして陛下の臣下達は……婚約を間違いなく私の家の側の問題のせいだという形にするため、私の家を潰しにかかった。
両親は、慌てて母親側の実家を頼った。
しかし両親に税額を偽ったという疑いがかけられ、両親の爵位は取り消しだ。
ただ母親の実家は、当主が実妹である母を見捨てられないと思ったようで、両親だけは領地内に住まわせることにしたらしい。
けれど、原因を作ったキャロルとなぜか私はダメだという。
たぶん対外的には、私が王子の婚約者ということになっていたせいだろう。まだキャロルとの婚約は発表になっていなかったものね。
両親は我が身可愛さに、私に謝ることなく逃げ、すぐに家から姿を消した。
荷物も貴金属もしっかりと持って、料理人から召使いや従僕も沢山連れて行った。
と同時に、私も夜逃げのごとく姿をくらませることにした。
執事のキアランと部屋付き召使いのマナと一緒に、キャロルの手を引いて。
「お姉様? どこへ行くの?」
自分のせいでこうなったのだと、両親にののしられたキャロルは、泣きはらした顔で私にたずねた。
「私たちの新しい家と、人生がある場所よ」
そう答えた私は、例のシロップを売る店舗兼自宅へ駆け込んだのだ。
そこからはもう、偽名を使ってキャロルと二人で生活している。
召使いのマナやキアランも一緒だ。
「お嬢様にどこまでもついていくと決めておりましたので」
マナはそう言ってくれた。
でもキアランはまだ若いし、どこへでも雇ってもらえそうなのに……と思ったけど。
「お嬢様の側にいるととても楽しいですから。ずっとお側にいさせてください」
柔らかく微笑むキアランの言葉に、私はほっとした。
お店を出すことにしても、たくさんキアランに頼って来たし、正直自分一人で切り盛りするのは心細かったのだ。
このつましくも、落ち着いた家で、キャロルは前世の生活をふっと思い出したようだ。
「前の生活みたいで、なんだか落ち着くかも」
ほっとした表情で笑ったキャロルは、続けて言った。
「でも……もう私は、犬じゃないんだものね」
ようやくキャロルは人間であることに目覚め、今度こそ食べ物に釣られるクセを治そうとしながら、仲良くお店を手伝ってくれるようになった。
そうして私は、今日も元気にお店を開ける。
「さ、朝ご飯をたべたら開店よ!」
うなずく三人の柔らかな表情に、私はこれで良かったのかもしれないと思ったのだった。
喜んだ王子が、キャロルと愛を語らいに家に来て少々さわがしかった。
王子はキャロルの浮気(にしか見えない行動)を心配して、ちょっと精神的に不安定だったのかもしれない。だからキャロルの気を引くため、盛大にお祝いをしようとしたのだろう。
ものすごくいろんな料理の匂いがしたもの……。
そんな私がようやく回復し、お店のことに専念するため学校を二日ほど休んだ時だった。
あの正義感あふれる公爵令嬢が、キャロルと他の男性がふしだらなことをしていたと告発したそうだ。
なんでも、公爵令嬢の従者と口づけしたのを目撃したのだとか。
王子との婚約が内定し、公表間近だったことを知っていた公爵令嬢は、早く話を立ち消えにさせて王子の名前を汚さないように、キャロルを強引に引き離したかったのだと思う。
王子は急にキャロルに冷たくなり、罵ったそうな。
「で、実際はどういうことなの?」
親しい人に冷たくされて、しおれた様子のキャロルに聞けば、どうしていいかわからなくなったキャロルはあっさりと教えてくれた。
お菓子を届けに来たと公爵令嬢の従者に言われ、受け取った時に一瞬抱きしめられたのだそうな。
それを何人かの人に見られ、していないのに口づけをしたと決めつけられたらしい。
「ああああ……」
完全に罠にかけられたようだ。
展開が予想以上に速い……と思っていたら、陛下の行動も早かった。
話を耳にした陛下は、こんな問題のある家との縁談は、望ましくない。婚約の話を無かったことにしたいと望んだ。
王子も浮気を複数人に目撃され、完全にキャロルから心が離れたのか、その決定に異は唱えなかったという。
そして陛下の臣下達は……婚約を間違いなく私の家の側の問題のせいだという形にするため、私の家を潰しにかかった。
両親は、慌てて母親側の実家を頼った。
しかし両親に税額を偽ったという疑いがかけられ、両親の爵位は取り消しだ。
ただ母親の実家は、当主が実妹である母を見捨てられないと思ったようで、両親だけは領地内に住まわせることにしたらしい。
けれど、原因を作ったキャロルとなぜか私はダメだという。
たぶん対外的には、私が王子の婚約者ということになっていたせいだろう。まだキャロルとの婚約は発表になっていなかったものね。
両親は我が身可愛さに、私に謝ることなく逃げ、すぐに家から姿を消した。
荷物も貴金属もしっかりと持って、料理人から召使いや従僕も沢山連れて行った。
と同時に、私も夜逃げのごとく姿をくらませることにした。
執事のキアランと部屋付き召使いのマナと一緒に、キャロルの手を引いて。
「お姉様? どこへ行くの?」
自分のせいでこうなったのだと、両親にののしられたキャロルは、泣きはらした顔で私にたずねた。
「私たちの新しい家と、人生がある場所よ」
そう答えた私は、例のシロップを売る店舗兼自宅へ駆け込んだのだ。
そこからはもう、偽名を使ってキャロルと二人で生活している。
召使いのマナやキアランも一緒だ。
「お嬢様にどこまでもついていくと決めておりましたので」
マナはそう言ってくれた。
でもキアランはまだ若いし、どこへでも雇ってもらえそうなのに……と思ったけど。
「お嬢様の側にいるととても楽しいですから。ずっとお側にいさせてください」
柔らかく微笑むキアランの言葉に、私はほっとした。
お店を出すことにしても、たくさんキアランに頼って来たし、正直自分一人で切り盛りするのは心細かったのだ。
このつましくも、落ち着いた家で、キャロルは前世の生活をふっと思い出したようだ。
「前の生活みたいで、なんだか落ち着くかも」
ほっとした表情で笑ったキャロルは、続けて言った。
「でも……もう私は、犬じゃないんだものね」
ようやくキャロルは人間であることに目覚め、今度こそ食べ物に釣られるクセを治そうとしながら、仲良くお店を手伝ってくれるようになった。
そうして私は、今日も元気にお店を開ける。
「さ、朝ご飯をたべたら開店よ!」
うなずく三人の柔らかな表情に、私はこれで良かったのかもしれないと思ったのだった。
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