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 学校……これが結構やっかいな存在だと、私はうすうす感じてはいたのだ。
 なにせキャロルの性格や性質が、犬時代のものを引きずりすぎている。
 その中でも未だに矯正できなかったのが――食べ物に釣られやすいことだ。

 館の料理人やお菓子をくれる召使いには、ことのほかべったりになりがちだったことから、私はとても警戒していた。

 だから対策はしていた。

「キャロルー。ほら、甘いシロップはどう?」
「お姉様、大好き!」

 私はキャロルが風邪をひく度、薬と一緒に飲ませるシロップがことのほか大好きだと知っていた。
 それをくれる医者にも、最初は犬時代の記憶を引きずっていたせいで、薬の匂いがする人物に警戒をしていたのに、シロップのおかげですっかり懐いたのだ。

 私はよりキャロルが大好きなシロップを開発し、だからこそ万全の体制をととのえたと自信を持っていた。

 しかしとんでもない障害が立ちはだかった。
 その一つが、キャロルの思春期特有の問題。
 自立心だ。

 犬の頃の忠誠心や愛着が、親への反発を生むあの有名な反抗期と戦った末、キャロルは混乱した。

 両親は貴族らしい貴族だったため、乳母や家庭教師に子供をまかせきりの人達で、もちろんキャロルのことも放置気味。そんな中、キャロルにとっての従うべき親は、私という認識になっていたのだ。

 おかげでキャロルは、私の指示に反発するようになった。
 さらには他にお菓子をくれる相手がでてきてしまい、その人に関連することではよく反発するようになった。

 その相手がものすごく悪いことに、私の婚約者、第三王子のルーディン様だったのだ。
 彼は自分を一番ほめたたえてくれる人が大好きだ。王子らしくずっとそうやって褒められて持ち上げられて育てられたせいだろう。
 しかし彼も、学校へ通うようになって、人生にはままならないことが多いと学んだ。

 なにせ王子として、周囲の人間に尊敬される実力を示せ、と放り出されたのだ。もちろん学力だけではなく、人々の仲の調整だってできなきゃいけないし、同年代の子供達は表面上は従うものの、後で王子を悪く言ってみたり、利用することばかり考えたり、まぁとにかく一筋縄ではいかない。

 人間関係に疲れ果てた王子にとって、無垢なまなざしで一心にしたい、命じたらその通りにしてくれるキャロルは、きっと素晴らしく見えたはず。

 まぁ、なんでも言うことを聞いてくれた王宮の召使い達の代わりみたいなものよね。
 そこに思春期らしい惚れっぽさや異性への興味が加わって、王子は一気に恋に落ちたらしい。
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