5 / 12
指輪の秘密2
しおりを挟む
公爵家の館の中を、シルヴェストの先導で進む。
メイドや執事がついてくることはないようだ。
(確実に、秘密にしたいのね)
決して漏れないようにするため、信用できる者にも話だけで相手の姿を見せないようにしておいているのかもしれない。そうしたら、たとえ外部に話が漏れても、誰か人をかくまっているだけだと言い訳もできる。
とある部屋に入ったシルヴェストは、その部屋にある扉の鍵を開けた。
隠された扉にしては、がっちりとした作りの大きな両開きの扉だ。
すると地下に続く階段が現れる。
エミリアはふと、疑問を覚えた。
(その人は、ずっと地下にこもっているのかしら?)
どれくらいの間、そんなふうにしているんだろう。
(突然かくまう話が発生して、それでシルヴェスト様は結婚相手を厳選しなければならなくなったのかしら? でもさっきの説明だと、もうずっと長いこと公爵家でかくまっているような感じだったし……)
さらにおかしいのは、この地下だ。
二階分ぐらいをゆっくりと降りていく。
白灰色の階段は、もともと地下に部屋を作るつもりでなければ、作れない場所にある。
さらにはその先にある扉を開けてみると、そこには薄暗い石壁の廊下だった。
「魔法の明かり?」
火が見えない。だから噂に聞く明かりを灯せる魔法があるのだろうか。
光源もよくわからなかった。
明るいおかげで廊下の壁に沿うように、立派な白石の柱がいくつも林立しているのがわかる。
まるで神殿のよう、とエミリアは感じた。
廊下の両端は行き止まりになっていて、一つだけ扉がある。
この扉も両開きの立派な木の扉だった。
(公爵家は、こんな地下室を最初から作ってどうするつもりだったのかしら?)
普通、地下といえば食物等を貯蔵するためとか、罪人を入れる牢を作るために使うのだけど、この地下の様子からすると、どちらの用途としてもちょっと違う気がしていた。
貯蔵庫に、白石の柱は必要だろうか?
地上の館を支えるために必要だとしたら、柱があるのはわかるのだが。
さらに驚くことに、地下の扉を開いた向こうは……まさに神殿といった造りだったのだ。
中央に広く道をつくるように空間があり、隔てるのは神殿のような何本もの柱。
奥側に、なぜか山盛りのリンゴと厚いえんじ色の布が垂れ下がる天蓋があった。
「ここは……」
「彼をかくまっている場所だ。この地下の存在を隠すために、公爵家の館が上に作られた。それなりの広さが必要だったから、館の建築場所は郊外にならざるをえなかったわけだが……。ああ、来た」
「え」
来たと言われて見れば、奥の天蓋で何かがのそりと動く。
一瞬、エミリアは逃げかけた。
でもシルヴェストが平然としているので、おそらくは問題のない存在なのだと思う。けど、明らかに影だけで、自分よりも何倍も大きいのだ。そんな生物がいたら逃げ出したくなってもおかしくない。
でも、シルヴェストには恩がある。
彼が次の結婚相手に悩むことになれば、それはエミリアのせいでもあるのだ。
もしかしたら、逃げてしまったあの花嫁になるべきだった女性が、連れ戻された後でこの試練を受け、無事に婚姻関係を継続できたかもしれない。
そんな可能性を閉ざしてしまったのは、エミリアなのだから。
(責任をとるのよ!)
踏みとどまり、何が出てくるのかじっと待つ。
黒い影と見えたのは、黒いマントを羽織っているからのようだ。
のそり、起き上がった頭はふさふさの毛で覆われ、ピンと立った三角耳が見える。
そして立ち上がったその姿は……。
メイドや執事がついてくることはないようだ。
(確実に、秘密にしたいのね)
決して漏れないようにするため、信用できる者にも話だけで相手の姿を見せないようにしておいているのかもしれない。そうしたら、たとえ外部に話が漏れても、誰か人をかくまっているだけだと言い訳もできる。
とある部屋に入ったシルヴェストは、その部屋にある扉の鍵を開けた。
隠された扉にしては、がっちりとした作りの大きな両開きの扉だ。
すると地下に続く階段が現れる。
エミリアはふと、疑問を覚えた。
(その人は、ずっと地下にこもっているのかしら?)
どれくらいの間、そんなふうにしているんだろう。
(突然かくまう話が発生して、それでシルヴェスト様は結婚相手を厳選しなければならなくなったのかしら? でもさっきの説明だと、もうずっと長いこと公爵家でかくまっているような感じだったし……)
さらにおかしいのは、この地下だ。
二階分ぐらいをゆっくりと降りていく。
白灰色の階段は、もともと地下に部屋を作るつもりでなければ、作れない場所にある。
さらにはその先にある扉を開けてみると、そこには薄暗い石壁の廊下だった。
「魔法の明かり?」
火が見えない。だから噂に聞く明かりを灯せる魔法があるのだろうか。
光源もよくわからなかった。
明るいおかげで廊下の壁に沿うように、立派な白石の柱がいくつも林立しているのがわかる。
まるで神殿のよう、とエミリアは感じた。
廊下の両端は行き止まりになっていて、一つだけ扉がある。
この扉も両開きの立派な木の扉だった。
(公爵家は、こんな地下室を最初から作ってどうするつもりだったのかしら?)
普通、地下といえば食物等を貯蔵するためとか、罪人を入れる牢を作るために使うのだけど、この地下の様子からすると、どちらの用途としてもちょっと違う気がしていた。
貯蔵庫に、白石の柱は必要だろうか?
地上の館を支えるために必要だとしたら、柱があるのはわかるのだが。
さらに驚くことに、地下の扉を開いた向こうは……まさに神殿といった造りだったのだ。
中央に広く道をつくるように空間があり、隔てるのは神殿のような何本もの柱。
奥側に、なぜか山盛りのリンゴと厚いえんじ色の布が垂れ下がる天蓋があった。
「ここは……」
「彼をかくまっている場所だ。この地下の存在を隠すために、公爵家の館が上に作られた。それなりの広さが必要だったから、館の建築場所は郊外にならざるをえなかったわけだが……。ああ、来た」
「え」
来たと言われて見れば、奥の天蓋で何かがのそりと動く。
一瞬、エミリアは逃げかけた。
でもシルヴェストが平然としているので、おそらくは問題のない存在なのだと思う。けど、明らかに影だけで、自分よりも何倍も大きいのだ。そんな生物がいたら逃げ出したくなってもおかしくない。
でも、シルヴェストには恩がある。
彼が次の結婚相手に悩むことになれば、それはエミリアのせいでもあるのだ。
もしかしたら、逃げてしまったあの花嫁になるべきだった女性が、連れ戻された後でこの試練を受け、無事に婚姻関係を継続できたかもしれない。
そんな可能性を閉ざしてしまったのは、エミリアなのだから。
(責任をとるのよ!)
踏みとどまり、何が出てくるのかじっと待つ。
黒い影と見えたのは、黒いマントを羽織っているからのようだ。
のそり、起き上がった頭はふさふさの毛で覆われ、ピンと立った三角耳が見える。
そして立ち上がったその姿は……。
121
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

男と女の初夜
緑谷めい
恋愛
キクナー王国との戦にあっさり敗れたコヅクーエ王国。
終戦条約の約款により、コヅクーエ王国の王女クリスティーヌは、"高圧的で粗暴"という評判のキクナー王国の国王フェリクスに嫁ぐこととなった。
しかし、クリスティーヌもまた”傲慢で我が儘”と噂される王女であった――
悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!
naturalsoft
恋愛
隣国のエスタナ帝国では七人の妃を娶る習わしがあった。日月火水木金土の曜日を司る七人の妃を選び、日曜が最上の正室であり月→土の順にランクが下がる。
これは過去に毎日誰の妃の下に向かうのか、熾烈な後宮争いがあり、多くの妃や子供が陰謀により亡くなった事で制定された制度であった。無論、その日に妃の下に向かうかどうかは皇帝が決めるが、溺愛している妃がいても、その曜日以外は訪れる事が禁じられていた。
そして今回、隣の国から妃として連れてこられた一人の悪女によって物語が始まる──
※キャライラストは専用ソフトを使った自作です。
※地図は専用ソフトを使い自作です。
※背景素材は一部有料版の素材を使わせて頂いております。転載禁止
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる