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第一部 ガーランド転生騒動
『フリ』をしてもらう作戦2
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「沙桐さんだけにそんな負担をかけるわけにはいきません! あの、借りは私が返します!」
勢いよく主張した彼女に、アンドリューはさわやかに微笑んで言った。
「うん、君には君の分だけ、借りを返してもらおうと思ってるよ」
「わ、わかりましたっ」
アンドリューなんでそんな台詞を笑顔で言えるんだ……。結構君は怖い奴だな。
笹原さんは協力してもらう側らしく、敬礼しかねない勢いで返事をしていた。そんな彼女に、アンドリューは釘を刺す。
「でも、笹原さん。君は……この沙桐さんのたくらみを、本当に実行していいの? あまり親しくない僕と、恋人のふりをしても問題ないのかな?」
尋ねる彼に、笹原さんは答えた。
「せっかく沙桐さんが考えてくれた案ですし、私もその方がいいと、そう思うんです。沙桐さんの言う通り、私は記憶に引きずられているとそう思うから。私は……とりあえず過去のフェリシアとしてではなく、今の自分として物事を考えたい。今までどうしていいかわからなくてもがいていたけれど、沙桐さんのおかげで自分がどうすべきか道が見えたような気持ちなんです」
そんな彼女の決意を聞いたアンドリューは、にこりと笑った。
「なら、今からはじめよう」
さっと笹原さんの前に進み出たアンドリューは、その場に膝をついて彼女に手を差し出した。あの日の、エドのように。
「おつきあい頂けますか?」
そう尋ねたアンドリューの表情に、一瞬どきりとする。
見上げる態勢って、熱心に一つのものだけをじっと見ているように見えるんだよ。まるで、君一人しか視界には入っていないと言われてるみたいに錯覚するほど。
アンドリューほどの綺麗な人に、そんな仕草をされたらどうなるか。敬礼しかねないほど緊張していた笹原さんは、もう顔が真っ赤になっている。
あげくその左手をそっと掬い上げるように掴み、口づけるしぐさに、私は見ちゃいけないものを見ている気になった。
しかしそんな気恥ずかしさをかき消したのは、エドの悲鳴だ。
「で、でででんか!」
なぜ君が焦るんだエドよ。表情がまるで子供が彼女を連れてきた! と戸惑っているお母さんみたいだよ。
「聞いただろうエド。一週間、恋人のフリをすることになった。異世界での男女のつきあい方というのも、国に戻ればいろいろと参考になるかもしれないよ?」
「……なるほど。そのような形でも情報を得ようとする殿下のお考え、承知いたしました。かくなれば私もお二人を守るべく全力をあげ――」
そこでアンドリューと私の声がハモる。
「全力はやめて」
「なぜゆえ!?」
納得がいかないらしいエドに、私が懇々と諭す。
「じゃあ質問するわエド。今までエドが『全力』でアンドリューに相応しい結婚相手を探そうとしていましたが、その成果はありましたか? はい答えをどうぞー」
「いいえ……ですが、それとこれでは……」
「同じよエド」
私はエドの方から視線をそらしつつ、後ろ暗い気持ちを抱えて説得の言葉を口から吐き出す。
「あなたはアンドリューに幸せな結婚を望んでいる。その条件には、きっとアンドリューが恋しいと思える相手であることが含まれてるはず。けれど恋とは繊細なもの。たとえフリであっても、外野がフォローを申し出たがゆえに悲惨な結果を導くこともあるのよ。であれば周囲がするべきことは、生暖かく見守ることのみ」
「沙桐さん、生暖かくってのはちょっと……」
笹原さんが耳に余ると思ってか訂正をもとめてくるが、私にその余裕はなく、これでいいのだと首を横にふってみせるのみにした。
だって自分で言っているのにも関わらず、なんだか鳥肌がたっていたのだ。
恋は繊細とか、どこのポエムだよと思った自分の台詞を思い出すと、恥ずかしくて笑いがこみ上げそうで危ない。しかし、エドを説得するためにこの嘘くさい話を続けなければならないのだ。
ちょっと自分の気持ちを支えるために、おもしろおかしく言うくらいは許してほしい。
「今のエドは、その加減がわからないでしょう。だからこそ、この『お試し』をアンドリューがしている間に、実際にアンドリューに婚約者なりができたときのための予行演習をすると思って、エドは見守る能力を磨くべきなのよ! だけどキースが邪魔してきたら排除していいわ。笹原さんは絶対に守ってちょうだい」
ここまで一気に語ると、エドは目を見開いた。
何か開眼したみたいに、三白眼が縦にかっぴらいている。ちょっとコワイ。
「わ……わかりました。師匠の命に従います」
次にぐっと眉間にしわを寄せる。一体何を苦悩してるんだ……。また何か変な方向に曲解してそうでコワイ。
一方のアンドリューは、さっそく任務を遂行しようとしてくれていた。
「なら、手始めに教室まで送ろうか」
「え! はいわかりました、演技ですね!」
「ここ以外では、演技だって言っちゃダメだよ」
アンドリューに微笑まれて、さらにカチコチになった笹原さんが手を上げて答える。
「わかりました!」
笹原さん、それじゃなんか先生と生徒みたいだよ……。
しかし彼女のこの対応からして、笹原柚希としては全く誰かとおつきあいをしたことがなかったのだろうと思われる。なので、ある意味フェリシアではない彼女自身の本質を思い出すのにはいいのかもしれない。
アンドリューとの相性も、そう悪くはないようだし。
そこでふと、想像してしまう。
このままアンドリューと笹原さんがくっついてしまったら、と。
そうしたらエドは、もう自分につきまとわなくなるだろう。エドのお守りをしなくても済むだろうし、また静かな学園生活に戻れるだろう。
もちろん友達のままだろうし、寂しくなんてないのだが。
……ほんの少し、何かを無くすような気持ちになるのはなぜだろう。
そんな事を思いながら、私はエドを連れてアンドリュー達を追って教室へ戻ったのだった。
勢いよく主張した彼女に、アンドリューはさわやかに微笑んで言った。
「うん、君には君の分だけ、借りを返してもらおうと思ってるよ」
「わ、わかりましたっ」
アンドリューなんでそんな台詞を笑顔で言えるんだ……。結構君は怖い奴だな。
笹原さんは協力してもらう側らしく、敬礼しかねない勢いで返事をしていた。そんな彼女に、アンドリューは釘を刺す。
「でも、笹原さん。君は……この沙桐さんのたくらみを、本当に実行していいの? あまり親しくない僕と、恋人のふりをしても問題ないのかな?」
尋ねる彼に、笹原さんは答えた。
「せっかく沙桐さんが考えてくれた案ですし、私もその方がいいと、そう思うんです。沙桐さんの言う通り、私は記憶に引きずられているとそう思うから。私は……とりあえず過去のフェリシアとしてではなく、今の自分として物事を考えたい。今までどうしていいかわからなくてもがいていたけれど、沙桐さんのおかげで自分がどうすべきか道が見えたような気持ちなんです」
そんな彼女の決意を聞いたアンドリューは、にこりと笑った。
「なら、今からはじめよう」
さっと笹原さんの前に進み出たアンドリューは、その場に膝をついて彼女に手を差し出した。あの日の、エドのように。
「おつきあい頂けますか?」
そう尋ねたアンドリューの表情に、一瞬どきりとする。
見上げる態勢って、熱心に一つのものだけをじっと見ているように見えるんだよ。まるで、君一人しか視界には入っていないと言われてるみたいに錯覚するほど。
アンドリューほどの綺麗な人に、そんな仕草をされたらどうなるか。敬礼しかねないほど緊張していた笹原さんは、もう顔が真っ赤になっている。
あげくその左手をそっと掬い上げるように掴み、口づけるしぐさに、私は見ちゃいけないものを見ている気になった。
しかしそんな気恥ずかしさをかき消したのは、エドの悲鳴だ。
「で、でででんか!」
なぜ君が焦るんだエドよ。表情がまるで子供が彼女を連れてきた! と戸惑っているお母さんみたいだよ。
「聞いただろうエド。一週間、恋人のフリをすることになった。異世界での男女のつきあい方というのも、国に戻ればいろいろと参考になるかもしれないよ?」
「……なるほど。そのような形でも情報を得ようとする殿下のお考え、承知いたしました。かくなれば私もお二人を守るべく全力をあげ――」
そこでアンドリューと私の声がハモる。
「全力はやめて」
「なぜゆえ!?」
納得がいかないらしいエドに、私が懇々と諭す。
「じゃあ質問するわエド。今までエドが『全力』でアンドリューに相応しい結婚相手を探そうとしていましたが、その成果はありましたか? はい答えをどうぞー」
「いいえ……ですが、それとこれでは……」
「同じよエド」
私はエドの方から視線をそらしつつ、後ろ暗い気持ちを抱えて説得の言葉を口から吐き出す。
「あなたはアンドリューに幸せな結婚を望んでいる。その条件には、きっとアンドリューが恋しいと思える相手であることが含まれてるはず。けれど恋とは繊細なもの。たとえフリであっても、外野がフォローを申し出たがゆえに悲惨な結果を導くこともあるのよ。であれば周囲がするべきことは、生暖かく見守ることのみ」
「沙桐さん、生暖かくってのはちょっと……」
笹原さんが耳に余ると思ってか訂正をもとめてくるが、私にその余裕はなく、これでいいのだと首を横にふってみせるのみにした。
だって自分で言っているのにも関わらず、なんだか鳥肌がたっていたのだ。
恋は繊細とか、どこのポエムだよと思った自分の台詞を思い出すと、恥ずかしくて笑いがこみ上げそうで危ない。しかし、エドを説得するためにこの嘘くさい話を続けなければならないのだ。
ちょっと自分の気持ちを支えるために、おもしろおかしく言うくらいは許してほしい。
「今のエドは、その加減がわからないでしょう。だからこそ、この『お試し』をアンドリューがしている間に、実際にアンドリューに婚約者なりができたときのための予行演習をすると思って、エドは見守る能力を磨くべきなのよ! だけどキースが邪魔してきたら排除していいわ。笹原さんは絶対に守ってちょうだい」
ここまで一気に語ると、エドは目を見開いた。
何か開眼したみたいに、三白眼が縦にかっぴらいている。ちょっとコワイ。
「わ……わかりました。師匠の命に従います」
次にぐっと眉間にしわを寄せる。一体何を苦悩してるんだ……。また何か変な方向に曲解してそうでコワイ。
一方のアンドリューは、さっそく任務を遂行しようとしてくれていた。
「なら、手始めに教室まで送ろうか」
「え! はいわかりました、演技ですね!」
「ここ以外では、演技だって言っちゃダメだよ」
アンドリューに微笑まれて、さらにカチコチになった笹原さんが手を上げて答える。
「わかりました!」
笹原さん、それじゃなんか先生と生徒みたいだよ……。
しかし彼女のこの対応からして、笹原柚希としては全く誰かとおつきあいをしたことがなかったのだろうと思われる。なので、ある意味フェリシアではない彼女自身の本質を思い出すのにはいいのかもしれない。
アンドリューとの相性も、そう悪くはないようだし。
そこでふと、想像してしまう。
このままアンドリューと笹原さんがくっついてしまったら、と。
そうしたらエドは、もう自分につきまとわなくなるだろう。エドのお守りをしなくても済むだろうし、また静かな学園生活に戻れるだろう。
もちろん友達のままだろうし、寂しくなんてないのだが。
……ほんの少し、何かを無くすような気持ちになるのはなぜだろう。
そんな事を思いながら、私はエドを連れてアンドリュー達を追って教室へ戻ったのだった。
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