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〘165〙お決まり
しおりを挟む「まあ、そうなるわな。」と、ヒシクラ。「……そうなりますね。」と、アカラギ。「スー、スー、」と、好きな男の肩に頭を預けて眠るハルチカ。
水曜日の午前中、仕事まえにアカラギの勉強会に参加するハルチカは、唯一の生徒であり、個人的な指導はありがたいほど貴重な時間だ。しかし、朝方まで枕席に侍り、朝食後は休息モードにはいる習慣が身についてしまい、なかなか頭が冴えない。睡眠不足というわけではないが、アカラギの声音は心地よく、つい、ウトウトしてしまうハルチカは、途中で睡魔に誘われた。場所は書院である。鍵を管理するヒシクラも承知の事実につき、ようすを見にきたが、予想どおりの展開に溜め息を吐いた。
「ラギよ、日時を変えてやったらどうだ? 火曜と水曜は客が挿入できる日だろう。……それとも、わざとなのか?」
最近の夜鷹坂には、新たな看板メニューがもうけられている。タカムラが決めたお品書きは厳守事項につき、どんな贔屓客も例外は認められない。ハルチカが無駄に発情しなくてすむように、からだの具合をある程度計算しているアカラギは、小さく肩をすぼめた。まぬけな顔で眠るハルチカだが、夜には客との性交渉を控えている。カクンッと、ハルチカの額がずり落ちて、アカラギの膝枕でうつつを抜かす(なんとも贅沢な睡眠環境だが、残念ながら本人の意識にはおよばない)。
「たいそうな身分だな、ハルチカのやつもよ。そうやって、おまえさんが身動きできずにいる姿を見られるかぎり、夜鷹坂の盤上は安泰だな。」
ヒシクラは意味深な科白を吐きだし、アカラギの膝枕で寝息を立てるハルチカを見おろした。青年はまだ、アカラギとの永遠を信じて疑わない。人生において、出逢いと別れは必然であり、そう簡単に抗えることではない。いかにして回避するかは、運にもよるだろう。
「おい、ハルチカ。起きてるか? たぬき寝入りするほど、器用じゃあないよな。」
腰をさげてハルチカの頬をつねるヒシクラに、アカラギは微かに眉をひそめた。一週間ほど前、風俗営業に反対する勢力により通り魔的な事件を起こされたアカラギは、二号店の計画に危機感を抱いた。従業員と利用者の安全を証明できなければ、開店など不可能に近い。夜鷹坂より敷地面積のひろい建物はすでに完成しているため、タカムラとアダシノは、ともに多額の資金を費やしている。たとえ新規事業に変更する場合も、同様の懸念はつきまとう。
「……それにしてもよ、こいつは、なかなかの妙案だな。まさか、おまえさんが考えたわけじゃないよな?」
ハルチカは上級男娼の衣装を身につけている。留具は釦ひとつで、腕や下肢はほとんど透けて見えるため、性的な反応をむやみに刺激される。ヒシクラが裾を持ちあげると、ハルチカの陰部はあっさり露出した。ヒシクラはそのまま裾を折りかえし、上級男娼の性器を見える状態にしておく。
「ながめるだけなら、問題ないだろう?」
なめらかな肌に思わず触りたくなるが、アカラギの立場に配慮して、視覚的に愉しむ状況を共有した。すると、ハルチカが寝返りをうって大の字になった。衣装の衿がはだけ、片側の乳首が見えた。股のあいだはすっかり丸見えだが、ヒシクラは、ハルチカのぷくっとした乳首に目を留めた。
「ハルチカの乳輪は、やけに桃色だな。」
乳輪の色素は人それぞれで、乳房が肥大化する男性もいた(はっきりとした原因は不明とする)。乳頭の周りには円状の部位があり、多くの成人男性は黒色や焦茶をしていたが、ハルチカの乳輪は桃色である。乳汁を吸いやすく発達する隆起物は、女性だけの特徴とはかぎらない。
✓つづく
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