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〘153〙不安な夜
しおりを挟む姿は見えなくても、同じ屋根の下にいる。枕席に侍るハルチカは、どんなときもアカラギの存在を意識した。好きな男の案内で壺の間へ向かう複雑な状況にも、ようやく慣れてきたが、哥が不在となる夜は、初めての経験だった。
「ど、どうしてエンオウが……、哥さんは……?」
「すみません、ハルチカさん。お客様がお待ちです。……どうかお急ぎを、」
ハルチカが愕くのは当然の反応につき、エンオウは申しわけなく思ういっぽう、案内役の務めを優先した。説明を省かれたハルチカは困惑の表情を浮かべたが、ふらりと腰をあげると、壺の間へ向かった。廊下の途中で、「あㇵぁん!」という、エンジュの嬌声が聴こえた。性的な快楽に喜悦するあえぎ声は、男娼を演じるうえで必要な要素とはいえ、障子戸に映る体位を見るかぎり、エンジュは従順な受け身に徹するつもりはないらしく、客の胴体にまたがって自ら腰を動かしていた。
「……エンオウ?」
心なしか、先をゆくエンオウの足取りが不安定になる。背後を歩くハルチカは、「だいじょうぶ?」と、厚みのある背中に声をかけた。これから性行為を控える男娼に気をつかわせてしまったエンオウは、ハッとして顔をあげた。
「す、すみません……。おれ、こういった雰囲気には、まだ不慣れで……、」
「ふふっ、娼館で働く人とは思えない科白だけど、エンオウらしくて和むね。」
「ハルチカさん……、」
「案外ご苦労さま。そうだ、お客様のお見送りがすんだら、ヒシクラさんを呼んでもらえる? おれ、じぶんで後処理したとき、内部を爪で切って、失敗しちゃってさ。……よろしくね。」
体内で中出しされた場合、ハルチカはアカラギの世話になっている。今夜は(正確には三日間)ヒシクラを頼るしかない。さすがに、エンオウの指で残留物を掻きだしてもらうわけにもいかず、本人も三階のようすは不慣れだと白状している。アカラギに、どういった事情が発生したのか不明だが、ハルチカは、やるべきことに集中した。今夜の利用客は、金持ち風情の若造だった。やや強引な手つきは不快に感じたが、挿入後の動きは緩やかで、短時間で行為を終えた。中出しはされているため、ハルチカは素肌に着物を羽織り、壺の間から一歩もでずにヒシクラを待った。
「よう、待たせたな。気分はどうだ?」
すべての客人が帰路についたあと、エンオウの言伝を承知したヒシクラは、帳場の片付けと戸締まりをして三階へ向かった。他の男娼は風呂場へ移動しているため、ハルチカは、静まり返った空間のなか、ひとりでヒシクラを待っていた。壁ぎわで膝を抱えて坐るハルチカは、ぼんやりと行燈を見つめていたが、「こっちへこいよ」というヒシクラにしたがって、布団のうえに移動した。
「どうした? 元気がないな。」
ヒシクラはハルチカの膝に片手をのせると、「さっさとやるか。ほら、もっと力を抜け。一本だけ挿れるぞ。」といって、肛門部へ指を添えた。ハルチカの精神状態は安定しているように見えるため、中指を奥まで埋め込んだ。
「……んんッ! ……あぅッ、」
微かに肩をふるわせるハルチカは、体内領域をさぐるヒシクラの指づかいに感じやすく、身体反応を必死にがまんした。強めに内腔を掻きまわされた瞬間、第三者の体液が一気に流れた。指を引き抜かれる感触に、ハルチカは高い声を洩らしてしまった。仰向けに倒れると、着物の前がはだけた。ほぼ全裸の状態につき、ヒシクラは、汗ばむ青年の胸もとを軽く撫でおろした。
✓つづく
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