137 / 165
〘137〙交代要員
しおりを挟むタカムラに呼びだされたハルチカは、すぐに顔を洗って二階にある楼主の部屋へ向かった。アカラギに世話をやかれた躰は、激しく抱きあったとは思えないほど清潔だった。眠っている間に使用された坐薬の効果もあり、内腔の炎症もおさまっている。タカムラの部屋では、どうせ脱ぐことになるだろうと考えたハルチカは、白藍色の小袖に、無地の半幅帯を結んだ恰好である。肩にかかる髪は、首のうしろで束ねておく。赤珊瑚のかんざしは、部屋に置いてきてしまった。
「ダンナさま、ハルチカです。」
扉の前に立ち、ひと声かける。返事がないまま、数分経過した。こっちは急ぎ足できたのにと、いくぶん腹を立てるハルチカは、「失礼します」といって、把手に腕をのばした。ガチャッ。扉をあけて目にした光景は、タカムラの全裸である。骨格や筋肉の所在は男そのもので、いちばん大事な持ちものも巨くて雄々しい。反射的に「ぎゃあ!!」と叫んだハルチカだが、楼主は無反応を示してガウンを着ると、長椅子に腰かけた。
芸者の煙管が床に転がっている。今しがた、この部屋に誰かがいた気配はない。壁のどこかに隠し扉でもあるのかと訝しむハルチカは、妙な違和感にとらわれた。タカムラのようすがおかしい。低血圧症なのか、こめかみを押さえて、まぶたを閉じている。呼びだされたはずなのに、ハルチカのほうで、タカムラの目覚めをじゃました気分になった。
「ダンナさま……?」
おそるおそる長椅子に近づくと、タカムラは前髪を掻きあげて、その眼でハルチカを見据えた。なにをされたわけでもないのに、ハルチカは手足に力がはいらず、身動きができなくなった。石になる呪いにかけられたハルチカは、煙管を拾って火を点ける楼主を、ただ見つめた。薬品の匂いがする。煙管を薫らせる楼主は、寝起きにしては癖毛はなく、髭の剃りあともない。男らしい輪郭をなぞった顔立ちは、対峙するだけで相手の心身を砕くことが可能な、強固にして覇者の印象を漂わせる。
日常的に高級スーツを身につけるタカムラは、初対面の人間に躰つきを連想させる隙をあたえない。寝台で肌を合わせないかぎり、立派な下半身を目撃することはできなかった。数えるほどだけとはいえ、破壊力抜群の巨根を受け容れてきたハルチカは、下品な思考を読まれて鼻で嗤われた。
「赤羅城と寝たそうだな。」
「……は、はい、」
蛇ににらまれたカエルのごとく、手足は動かせないが声はでる。灰皿に煙管を伏せて置くタカムラは、近々新しい男娼を呼びよせて、試用期間をもうけると説明した。上級男娼として、新顔の面倒をみろと付け足す。
「おれが……ですか?」
「キリコにも伝えてある。今回採用するのは三、四人の予定だ。方針を制限せず、体調管理は個人の責任とする。」
自慰行為をせずに精液を溜めおくと(禁欲期間が続くと)、射出精子の質が低下する可能性があった。個人差はあるものの、性欲があれば頻回に射精して悪いことはなく、健康にも大きな問題はないとされている。性教育はアカラギの仕事だと思っていたが、タカムラは男娼を雇うと云った。つまり、蛇の道の素人ではない。ハルチカとキリコがやるべきは、上級男娼として見込めるかどうか、実際にかかわって調査することである。枕席での有様は、肌を合わせるタカムラが引き受ける。
「おれの意見が役に立つかどうかわかりませんが、やってみます……。」
同業者のふるまいを監視するみたいで気が引けるハルチカだが、目の前の人物は、否と述べる権利をあたえていなかった。
✓つづく
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる