曙花町男娼夜鷹坂

〘122〙罪の自覚

　上級男娼に昇格するため、試験を受けるキリコは、見物人ギャラリーが集まるなか、楼主の部屋でタカムラと性交渉した（のちに、ハルチカも経験する）。当然のごとく、アカラギもその場に立ち合い、キリコの肢体を黙ってながめていた──。


「……ふ……ふふっ、いいのよ、それで。わたしはね、助けてほしいなんて思わない。どんなときも、あなたは見ているだけ……、それでよかったの……、」

　
　楼主あるじの自室に立ち入った罪、お仕置き部屋へ乱入した罪、ハルチカに手をあげた罪（男娼同士の揉めごとは違反行為に抵触する）など、キリコの罪状は重い。アカラギとヒシクラによってモモコとハルチカが運びだされたあと、キリコは体罰の刑に処された。タカムラは、全裸にして吊りあげたキリコに足枷はつけず、膝を縄で括り、開脚の状態で宙吊りに固定した。丸見えになった開口部へガラス製の張形を挿入すると、奥まで突き刺した。グリグリと内腔を掻きまわされて苦悶の表情を浮かべるキリコだが、枕席で第三者の欲望を受けいれるより、タカムラに陵辱されたほうがずっとマシにつき、笑みがこぼれた。

「余裕がありそうだな。」

「……あら、失礼。……余裕そうに見えるなら、ダンナが本気をだしていない証拠じゃなくて？」

「ならば後悔せよ。」

　タカムラは刑具を引き抜いて床に捨てると、ズボンのまえをひらいた。宙吊り状態で巨根に突かれるキリコは淫らな吐息を洩らすが、退路のない迷宮に迷いこんだような、困惑の表情も見られた。

　これまで、周囲の人間に友好的な態度をとってきたわけではないキリコだが、親しみにくい性格というほどではない。個別に考えれば、夜鷹坂で働く従業員は人並みでない日常を送っているため、誰もが狂いだす可能性はあった。男娼という生業なりわいは、自己水準を高めてこそ成立する。

「……わたしは、油断していたのかもしれないわね、……あㇵッ！　んんッ！」

　タカムラに激しく腰を突かれるキリコは、自身の誤算を悟る。あれほど堅物だった人物アカラギが、ハルチカの性教育に関与するうち、生来の気立てをちらつかせるようになり、永続的な親密関係を確立させた。キリコの思い過ごしではなく、共通の理念が両者のなかにあるからこそ、変化に気づくことができた。

「……なんだか、わたしがいちばんまぬけ、、、みたい。……わたしの罪は、固定観念にとらわれて、自由性を否定してきたこと、……わたしの罪は、愛されるに値する気持ちを示してこなかったこと……、わたしの罪は、あの人の名を、いちども呼ばなかったこと……、」

　愛を願う気持ちに反して、キリコは放埒ほうらつな快楽に身を捧げてきた。断じて、無感覚だったわけではない。じぶんの気持ちを遠ざけたほうが、生きやすかったからである。だが、ハルチカやモモコは、勇敢に立ち向かった。ふたりの姿が生き生きとして見えるキリコは、じぶんの内にある罪を憎み、自己認識に基づいて、無謀な行動にでた。ハルチカやヒョウエのように、仲間を助けようと思ったわけでもなく、善をなそうという意志はない。ただ、じぶんの過去を恨み、罰を受けるべきだと考えた。

「……ダンナ、いいわぇ！　いっそ、わたしを毀こわして頂戴！　蜈蚣むかでの這う土に、この腐った身体からだを投げ捨てるといいわ……！」

　自暴自棄になるキリコは、いつのまにか床に横たわっていた。タカムラの姿はなく、お仕置き部屋に放置されたが、夜鷹坂には手を差しのべる男がいる。


「キリコ、」

　
　体罰により感覚が麻痺している。アカラギの呼びかけに反応できないキリコは、冷たい床のうえで、ゆっくりまぶたを閉じた。
　

✓つづく