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〘108〙手前味噌
しおりを挟むあれから、三日ほど経過した。テツとの枕席での態度を、それとなく注意された気がするハルチカは、いちおうは反省し、今夜の枕席に備えて肛門部に軟膏を塗っていると、スパーンッと、部屋の障子戸がひらいた。
「ヒョウエ! ……と、ヒシクラさん!?」
「ハルだ~、久しぶりー!」
「なんだ、手入れの最中か? おれも参加してやろう。」
「ヒョウエ、待って! ヒシクラさんも、いちいち触らなくていいから!!」
数十日ぶりにヒョウエと顔を合わせたハルチカは、正面から抱きつかれて身動きがとれず、なぜか同時にあらわれたヒシクラに、ムギュッと、じかに陰部をにぎられて青ざめた。
「や、やめてってばぁ!」
尖端をムニムニと揉まれて、迂闊にも気持ちよく感じるハルチカは、ヒシクラの腕をふりはらえず、あんあんと悦がってしまった。
「わッ、ハルの顔、いやらしい!」
「ヒョウエ、離れて! ヒシクラさんも、それ以上はやめてぇ!」
ビクビクと腰がふるえだすハルチカは、障子戸の隙間を横切る人物に、ゾッとした。はっきりとは見えなかったが、今の人影はアカラギではないかと、うろたえる。調子に乗る指を、パチンッと叩いてヒシクラに惑わされる感覚を断ち切ると、つづいて、ヒョウエを抱きしめた。
「……よかった。……無事で、」
「へへっ、おれは無事だよ。ラギに面倒かけちゃったけど、やっぱり、ダンナはすごかった……。おれの珍子くらい、潰そうと思えばできたはずなのに、傷は残らなかった。」
「そ、そう……、よかった(どこに怪我したの?)。でも、体罰なんて、二度と受けるようなことしないで。おれだったら、三度目は許さないからね。」
「ごめん、ハル。ありがとな。」
ふたりの男娼は、再会のよろこびと友情を確かめ合って笑った。ヒシクラとの距離感が悩ましいハルチカは、ヒョウエの復帰を支えたアカラギに感謝しつつ、ホッと息を吐いた。ヒョウエは、モモコにも逢ってくるといって、あわただしく部屋をでていった。ヒシクラとふたりきりになったハルチカは、ペトロの容器を化粧台の抽斗にしまうと、桜川文様の坐布団を差しだした。
仕事まえに、ヒシクラが三階へ足を運ぶとは珍しい。急ぎの用事でもあるのかと思ったが、おちつかないハルチカをよそに、本人は至ってのんびりと、坐布団のうえであぐらをかいている。
「そんなに緊張するなよ。数日ぶりとはいえ、おれたちの仲だろう。」
それはどんな仲だろうかと真剣に考えるハルチカは、アカラギに太刀打ちできなかった件を、目の前の本人に報せるべきだった。その機会を、ヒシクラが自らあたえているのだから。
「……おれ、哥さんに告白したよ。ヒシクラさんに云われたとおり、はっきり伝えたんだ。でも、従業員と男娼は交際できないって規則もあるし、そんなの、わかっているけれど、おれが知りたいのは、哥さんの気持ちだから……、」
「ラギは、とっくに認めているさ。」
「え? なにを?」
「臆病なくせにわがままで、寂しいくせに強がって意地を張る、タフで泣き虫な、放っておけない存在をだよ。」
「……それ、おれのこと?」
「ほかに誰が当てはまるかよ。念のため云っておくが、この先、なにがあっても変な気を起こすなよ。」
二号店への異動辞令が確定しているアカラギは、忙しく動きまわっていた。火鉢で手のひらを温めるハルチカは、まだなにも知らない。
「変もなにも、これまでだって、おれに非はないだろ。」
「ほう、ものすごい発言だな。天然も追加しよう。」
失笑されたハルチカは、わなわなと身をふるわせたが、ヒシクラと会話するうちに、肩は軽くなっていた。
✓つづく
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