曙花町男娼夜鷹坂

み馬

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〘88〙両手に花

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 タカムラが去った茶室で、ハルチカは仰向けの状態で脱力していた。弄ばれたような気もするが、吸われた乳首がジンジンと熱をもち、隠された欲望を煽っておきながら、下半身には触れず放置された。

「……なに……これ。……なんなの、あの人? ……こんなふうに、触れてくるなんて、はじめて……だ……、」

 タカムラの口づけや乳首を吸われる感触が、これまでにないほど気持ちよすぎたハルチカは、ガバッと上体を起こした。茶室の扉が、少し開いている。廊下に人の気配がして、あわてて坐布団を引き寄せると、ヒョコッと、モモコが顔を見せた。

「ハルちゃん、」

「モモさん!」

「ごめんね。見ちゃった。……旦那だんなさまったら、ハルちゃん(の乳首)が可愛くてしかたなかったのかな。」

「か、かわいい?」

「でも、こんな話をしたら、ヒョウくんがいちゃうかな。……わたしもね、ハルちゃんの肉体からだには興味があるの。……ちょっとだけならいい?」

「ちょっとだけって、なにが? モモさん?」

 り足で寄ってきたモモコは、ハルチカの着物に腕をのばし、裾を持ちあげた。以前、ヒョウエにも同じような行動を起こされたハルチカは、モモコの見たいもの、、、、、を察した。

「わあ、すごい。ハルちゃんの、とってもきれいね。」

「あ、ありが……とう……?」

「じゃあ、わたしのも見せてあげるね。……ほら、ハルちゃんのと、全然ちがうでしょう。」

「モ、モモさん……、」

 互いの下半身を見比べる状況に、ハルチカは動揺した。モモコの下腹部は、性毛を剃刀カミソリで処理するたび皮膚が赤く腫れてしまい、逸物いちもつほそめ、、、で、男娼としては見栄えが悪かった。むろん、枕席ちんせきでの評価にかかわる部位は体内領域につき、見た目の不具合は、そこまで深刻な問題ではない。

「おい、ふたりとも。いつまで珍子ちんこをながめてる気だ? そんな恰好かっこうをしていると、風邪ひくぞ。」

 茶室にあらわれたヒシクラは、ハルチカとモモコの下半身を交互に見、溜め息を吐いた。ふたりは、露出させている部位をあわてて隠したが、ヒシクラに「がははっ」と大笑いされた。

「そ、そんなに笑うことないだろ!」と憤慨するハルチカと、「そうです、そうです!」と顔を真っ赤にして恥ずかしがるモモコは、「せーの」と息を合わせ、同時にヒシクラへ飛びついた。「おっと」といって身を反らしてかわすヒシクラは、よろめくふたりが転倒しないよう、腕を差しのべた。

「襲いかかってくる男娼ってのも悪くはないが、どうせならぱだかになって、壺の間でやってもらいたいね。」

 グイッと、太い腕で胴体を引きもどされたハルチカとモモコは、顔を見合わせて笑顔になった。

「あはっ!」とハルチカが吹きだすと、モモコも「あははっ!」と笑った。ヒシクラの左右の腕にしがみつき、しばらく三人でじゃれ合っていると、「ヒシクラさーん!」という、サイキチの声が聞こえた。

「ここだ、サイキチ。どうした?」

「失礼します。わッ! す、すみません、お取り込み中でしたか!?」

 ヒシクラをふたりがかりで畳のうえに押し倒そうとしたハルチカとモモコだが、腕力で勝てる相手ではなかった。ハルチカ、モモコ、ヒシクラの順で躰ごと乗っかっていると、サイキチに誤解された。

「ちがうから!」と、いちばん下でバンバンと手のひらで畳をたたくハルチカが反論すると、ヒシクラはモモコに自重を乗せるのをやめ、「廊下の電灯がチカチカ光ってて、切れそうなところがあるんです」というサイキチに、「よし、行くか」とこたえ、茶室をあとにした。


✓つづく
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