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〘87〙諸刃の剣
しおりを挟む煙草の烟を口移しで喫わされたハルチカは、ゲホゲホと吐きだした。呼吸をおちつかせる間に、灰皿の底で火を消した楼主は、上着を脱いで脇におき、何事もなかったように緑茶を呑んだ。愕然とするハルチカだが、楼主の手から茶碗を奪い取ると、ゴクゴクと呑み干した。度胸試しに負けてばかりいられない。ハルチカは強気だった。
「ほう、」
それで? と、傍観をきめこむタカムラは、腰紐を解いて裸身になろうとするハルチカを、「やめるんだ」のひとことで制した。一抹の不安がよぎるハルチカは、着物の衿を合わせ、タカムラのそばで正坐した。坐布団はつかわない。楼主は、二本目の煙草を喫っている。茶室が白くけむった。
「どうして、抱いてくれないのですか? おれは、哥さんの話をきかせてほしいのに……、」
「おまえをねじ伏せることくらい不難いが、じきに、判定すると云ったろう。……性交を取引に持ちだす考えは悪くないが、横槍に突かれてはおもしろくない。」
「横槍なんて、誰がそんなことを……、」
ヒシクラは、次にハルチカを政治的な事柄に利用した場合、財産を使い切ってでも買いあげると宣言した。ほしいものを手に入れるため肉体を捧げようとするハルチカの根性は、諸刃の剣である。アカラギに自衛しろと云われても、その方法がわからないハルチカは、覚悟と無謀の判断さえ、あいまいだった。三本目の煙草をくわえるタカムラは、火を点けるまえにやめ、ハルチカへ視線を向けた。
「赤羅城が心凝に手を焼くはずだ。」
「おれに……ですか? なんで……、」
「真に欲するは、気心の知れた仲間などではない。相手の人生そのものだ。溫治よ、覚えておけ。おまえのわがままは他人を狂わす。おまえは、狂った人間を愛することができるか。」
「狂わす? おれが哥さんを?」
当初の計画は、すでに予期せぬ方向に流されている。原因の本人を拾ってきたタカムラは、ハルチカの衿を摑んで引き寄せると、口唇を重ねた。
「……ッ!!」
それは強引な口づけではなく、タカムラの舌は、ハルチカの呼吸を妨げない。一方的に気息を吹きこまれても、咽喉に詰まることはなく、まったく不快に感じなかった。……あれ? き、気持ちいい?
「ふッ、んッ、……ダンナ……さまぁ……ッ、……はㇷッ、んんッ、」
夫婦の閨ごとのように、タカムラはハルチカの背中を支えながら畳のうえに仰臥させると、しばらく口づけをくり返した。
「ダ……ンナ……さま……、ダンナさ……まァ……! んッ、んんッ!」
タカムラと夢中で舌を絡め合うハルチカは、口づけだけでイキそうになるが、腰をひねってがまんした。スルッと、タカムラの手が衿の内側にすべりこんできて、じかに乳首を擦られた瞬間、「やァッ!!」と、過敏に反応した。楼主に肌を吸われるハルチカは、乳首がヒクヒクと痙攣した。
「あッ、あッ、……ダンナさ……ま……、だ、だめ……、だめぇ……!」
きょうのタカムラは、恋人の肌を愛でるように触れてくる。身体反応を起こしたくないハルチカは、小さく肩をふるわせた。タカムラは、ハルチカの興奮して硬くなる乳頭を口腔へ含むと、強弱をつけて吸引した。
「あッ、んッ、あんッ! ダ、ダンナさまぁ!」
「おまえは、至極、快楽に飢えているように見えるな。男娼とは、人肌で惑わせるだけが術ではなかろう。」
微かに笑みを浮かべるタカムラは、ハルチカの下半身には触れず、乳首を舐めて反応を確かめたあと忠告した。
✓つづく
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