曙花町男娼夜鷹坂

み馬

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〘85〙勢力拡大

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 最近の夜鷹坂では、大広間で宴会をひらく団体客が増えてきた。多くの客は食事と芸者との坐敷ざしき遊びで盛りあがり、泥酔して帰っていくだけだが、手持ちに余裕のある人間は、せっかくならばと男娼を味わうため、枕席ちんせきはべる。アカラギは控えの間へ向かい、それぞれの客に最適と思われる男娼を案内すると、最後に、ハルチカを呼びにきた。

にいさん、今夜も満員御礼だね。」

「ああ。指名ではないが、これから相手にする客は上層部の人間だ。うまくびて、金をむしり取ってこい。」

「はいよ。」

 ハルチカは、躰をつかって娼館の売上に貢献していたが、壺の間での性行為は合法につき、罪悪感はなく、むしろ、世の中に価値を求められる仕事として、しっかり向き合った。キリコのように主導権はにぎれなくても、利用客を満足させることはできる。ただ、抵抗しない。性交セックスの過程は考えず、布団のうえで股をひらけば、客のほうで好きに動きだす。稀に「ああしろ」「こうしろ」と注文を受けるが、ハルチカは「お望みならば」と笑みを浮かべ、何事にも応じた。


「あァんッ、はッ、はぁッ、……んんッ、……ぁんッ! あんッ!」


 今夜の客は、どこにでもいそうな一般男性といった見た目で、左手の薬指に指輪ゆびわめていた。妻帯者と思われたが、腰つきはイマイチで、ハルチカは気持ちのいいふりをした。だますつもりはないが、自己充足のじゃまだけはしないよう、男娼らしく身悶えるうち、体内に射精される。アカラギ(と狩谷鷹羽)しかたどりつけない領域が、もどかしくキュウッと収縮する感覚に、ハルチカは「あァんッ!」と、熱い息を洩らした。


 もっと奥に……
 もっと奥までほしい……
 こんなの、中途半端だ
 ぜんぜん満たされない

 
 極上の快楽は、好きな男とする性交でなければ感じることができない。そういう躰に変化してしまった(アカラギとの相性が抜群すぎる)ハルチカは、壺の間での肉体関係に自己充足は得られず、週末の性教育が待ち遠しく感じた。


 あと二日……
 あと二日後には、 
 また、哥さんと……


 アカラギに抱かれるたび、ハルチカは心身ともに満たされ、同じ壺の間が、まるでちがう世界に見えた。無遠慮な手つきで肌に触れてくる客など、なにも問題ではない。彼らは、男娼を欲望の捌け口にするだけの対価を払っている。

「あァんッ、あんッ、あㇵんッ!」

 色っぽい声をだすことも、感じている演技も上達した。ハルチカが肉体を捧げながらあえぐようすは、廊下で待機するアカラギの耳にも届いた。順調に性交渉が進行しているか、壺の間から聴き取れる物音により、アカラギの判断や行動は変化する。大広間の会計がすんで、しばらく手隙となったヒシクラが、めずらしく帳場を離れて三階にやってきた。

「この声、ハルチカか。……ふうん? なんだか妙だな。」

「お判りですか。おそらく、相手の欠陥が原因です。」

「ラギ、おまえ、そうと知ったうえで、ハルチカを案内したのか。」

「はい。」

「ったく、おまえというやつは。……ハルチカも気の毒に、」

 妻帯者の持ちもの、、、、は、かたちが悪かった。いびつ、、、な欲望で抜き挿しされるハルチカは、まったく気持ちよくない。だが、最後まで辛抱するしかない。「あぁァあーッ!」と、ハルチカの絶頂を遂げる声を廊下で聴いたヒシクラは、無意識に眉をひそめたが、アカラギは涼しい表情のまま、スッと腰をあげ、となりの枕席へ耳をすませた。

「あんな声を、毎晩、聴いているのか……。」

 ヒシクラは一階の帳場へ引き返したあと、三階で働くアカラギの精神面を懸念した。


✓つづく
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