85 / 200
〘85〙勢力拡大
しおりを挟む最近の夜鷹坂では、大広間で宴会を催く団体客が増えてきた。多くの客は食事と芸者との坐敷遊びで盛りあがり、泥酔して帰っていくだけだが、手持ちに余裕のある人間は、せっかくならばと男娼を味わうため、枕席に侍る。アカラギは控えの間へ向かい、それぞれの客に最適と思われる男娼を案内すると、最後に、ハルチカを呼びにきた。
「哥さん、今夜も満員御礼だね。」
「ああ。指名ではないが、これから相手にする客は上層部の人間だ。うまく媚びて、金をむしり取ってこい。」
「はいよ。」
ハルチカは、躰をつかって娼館の売上に貢献していたが、壺の間での性行為は合法につき、罪悪感はなく、むしろ、世の中に価値を求められる仕事として、しっかり向き合った。キリコのように主導権はにぎれなくても、利用客を満足させることはできる。ただ、抵抗しない。性交の過程は考えず、布団のうえで股をひらけば、客のほうで好きに動きだす。稀に「ああしろ」「こうしろ」と注文を受けるが、ハルチカは「お望みならば」と笑みを浮かべ、何事にも応じた。
「あァんッ、はッ、はぁッ、……んんッ、……ぁんッ! あんッ!」
今夜の客は、どこにでもいそうな一般男性といった見た目で、左手の薬指に指輪を嵌めていた。妻帯者と思われたが、腰つきはイマイチで、ハルチカは気持ちのいいふりをした。騙すつもりはないが、自己充足のじゃまだけはしないよう、男娼らしく身悶えるうち、体内に射精される。アカラギ(と狩谷鷹羽)しかたどりつけない領域が、もどかしくキュウッと収縮する感覚に、ハルチカは「あァんッ!」と、熱い息を洩らした。
もっと奥に……
もっと奥までほしい……
こんなの、中途半端だ
ぜんぜん満たされない
極上の快楽は、好きな男とする性交でなければ感じることができない。そういう躰に変化してしまった(アカラギとの相性が抜群すぎる)ハルチカは、壺の間での肉体関係に自己充足は得られず、週末の性教育が待ち遠しく感じた。
あと二日……
あと二日後には、
また、哥さんと……
アカラギに抱かれるたび、ハルチカは心身ともに満たされ、同じ壺の間が、まるでちがう世界に見えた。無遠慮な手つきで肌に触れてくる客など、なにも問題ではない。彼らは、男娼を欲望の捌け口にするだけの対価を払っている。
「あァんッ、あんッ、あㇵんッ!」
色っぽい声をだすことも、感じている演技も上達した。ハルチカが肉体を捧げながらあえぐようすは、廊下で待機するアカラギの耳にも届いた。順調に性交渉が進行しているか、壺の間から聴き取れる物音により、アカラギの判断や行動は変化する。大広間の会計がすんで、しばらく手隙となったヒシクラが、めずらしく帳場を離れて三階にやってきた。
「この声、ハルチカか。……ふうん? なんだか妙だな。」
「お判りですか。おそらく、相手の欠陥が原因です。」
「ラギ、おまえ、そうと知ったうえで、ハルチカを案内したのか。」
「はい。」
「ったく、おまえというやつは。……ハルチカも気の毒に、」
妻帯者の持ちものは、かたちが悪かった。いびつな欲望で抜き挿しされるハルチカは、まったく気持ちよくない。だが、最後まで辛抱するしかない。「あぁァあーッ!」と、ハルチカの絶頂を遂げる声を廊下で聴いたヒシクラは、無意識に眉をひそめたが、アカラギは涼しい表情のまま、スッと腰をあげ、となりの枕席へ耳をすませた。
「あんな声を、毎晩、聴いているのか……。」
ヒシクラは一階の帳場へ引き返したあと、三階で働くアカラギの精神面を懸念した。
✓つづく
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。



男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる