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〘62〙すきもの
しおりを挟む花町は俗悪な場所だが、夜は煌々たる娼館の看板に目を輝かせる人影が行き交う。彼らには、恐ろしさも恥ずかしさもない。
しなやかな肌を、弓なりに反らして悦楽の表情を浮かべるキリコは、壺の間で鐵と抱き合っていた。ハルチカの容姿を好まないテツは、齢五十という節目の早寿だが、男娼との火遊びはやめられそうもなかった。鐵とは苗字で、名前は伊織之介という。キリコやヒョウエと枕席に侍るが、彼は妻子持ちである。社会的な立場上、跡継ぎにする子どもを作っておく必要があった。
「どうだ、キリコ。気持ちいいか、」
「もちろんさ。……あぁんッ!」
百閉といって、仰向けに寝転んだテツの胴体にまたがるキリコは、受けが上位の体勢で肛交すると、淫らな声を洩らした。
「テツさんこそ、相変わらず旺盛だねぇ。……早寿だなんて思えないほど、いい肉体してる。さあ、わたしに遠慮はいらないよ。好きにおし。」
「この雌狐め。」
下から腰を突きあげるテツは、キリコを淫らに咲かせ、濃密な時間を夜鷹坂で過ごす。「あはァんッ!」と大胆に悦がるキリコは、テツに割札を持たせていた。それはある意味、「浮気しないで、わたしを指名してね」という、男娼なりの束縛方法である。割札をもつ上客の多くは、男娼に特別扱いされていると勘違いしたが、テツの場合、すべてを承知したうえで、キリコを指名した。たまに、ヒョウエも指名する。
「そういや、しばらくヒョウのやつを見てねぇな。なにかあったのか、」
「……いやだね、テツさんは。この状況で、わたしに集中してくれなきゃ、たまらないよ。」
「おまえほどの上玉が妬くなよ。で、ヒョウエは、どうした?」
云いながら、躰を反転させてキリコを組み敷くテツは、ズンズンと腰を突き、気高い上級男娼をあえがせた。キリコの容貌は、誰が見ても美しく、激しい性交の最中でも口許に笑みを浮かべ、「もっとだよ、もっと頂戴な」と、上客の興奮を煽ってくる。積極的というよりは挑発的で、迫力美人という特徴を兼ね備えていた。現状に満足せず、より高みを目ざすキリコの向上心は、たんに負けず嫌いではなく、前進しようとする意欲があるからで、その姿は、性サービスを提供しない芸者(唄や踊り担当の男性陣)も、ひそかに憧れた。
「……ヒョウエはね、折檻されたんだよ。夜鷹坂には、お仕置き部屋があって、躾が必要になった男娼に、楼主が調教するの。……なかには、再起不能になった子もいるけれど、自業自得でしょうね。それに、ダンナはね、厳しい罰を与えた子であっても、かならず手切れ金を添えて追いだすのよ。しばらく生活には困らないし、場合によっては暮らす部屋も探してもらえる。……よくできた話でしょう?」
「ヒョウのやつ、なにか失敗したのか、」
「ええ、そうよ。上級男娼の……、ハルチカの枕席に乱入したの。」
「溫治だと? あのひょろっとしたもやしか。そりゃ、大騒ぎになったろう。」
「ハルチカをご存じ? テツさんったら、隅に置けない人……。」
「少し前に花町でな。」
「もしや、ハルチカに興味がおあり?」
「さあ、どうかな。……出すぜ。」
キリコの体内領域に射精するテツは、意図して、ハルチカの容姿を思い浮かべた。まったく好みではないが、男娼との相性は、枕席での反応を見ないかぎり、正確には判断できない。
✓つづく
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