47 / 165
〘47〙ひと月前
しおりを挟む三日目の正午、ぼんやりと起床した溫治は、着がえをするあいだ、躰じゅうに痛みを感じた。とくに痛む部位は、背中と腰である。朱鷺士を名乗る紳士との枕席は、今夜で最終日となるが、いくぶん雑な扱いを受けているため、無意識に溜め息を吐いた。いくら大金を払っているからとはいえ、男娼を性欲処理の人形とまちがわれては困る。相手の立場に関係なく、社会人としての礼儀は必要だ。
「ハ~ル、起きてる?」
洗顔のあと、鏡台の前に正坐して髪を束ねていると、雹ヱが訪ねてきた。「お入りなさいな」と、気取って挨拶するハルチカに、ヒョウエはフフフと笑いながら障子戸から顔をだした。中級男娼のヒョウエは、箪笥に寄りかかって足をのばすと、首のうしろで両手を組み、ハルチカの横顔に話しかけた。
「今夜までだったよな。トキツカサのおっさんと寝るの、」
「……うん。」
「髙邑のダンナと同じくらい高身長だから、あっちのほうもデカブツなんだろ? おれ、巨根の中年って大好物なんだ。ラギに頼んで、まわしてもらえないかなァ。」
「……さすがに、今回は無理だと思うよ。どういうわけか、おれが指名予約されていたんだ。トキツカサ家なんて、おれはなにも知らないのに、変な話だよね。」
「トキツカサって、由緒ある旧家だっけ。流言によると、すげぇ金持ちらしいじゃん。わざわざ夜鷹坂の男娼を味見するってことは、ハル次第で常連になるかもな。」
ヒョウエは白い歯を見せて笑い、膝を立てて坐り直した。男娼は下着を身につけないため、ハルチカの眼にヒョウエの陰部がちらついた。大事な急所を見られても気にしないヒョウエは、もうしばらく雑談をつづけた。
「そう云えば、ひと月くらい前にシノさんと寝たけど、あの人もダンナと同じくらい背が高くて、珍子もうまかったな。見た目もちょっと好みだし。ハルも、シノさんと寝たことあるだろ。あの人、この前はキリコを指名してたけど、そろそろ本命をきめてほしいと思わねぇ?」
シノさんとは、馴染み客のひとり(化野)である。そもそも、赤羅城の采配によって枕席に侍ることが多い夜鷹坂において、男娼を名指しで呼びだせる利用客は少ない。ハルチカの場合、桐涸のように上級男娼の権限で割札を発行し、上客を贔屓にすることもできたが、特定の相手をもたないハルチカは、指名されないかぎり、連続して躰が空く日もあった。
「アダシノさまの本命?」
「そう、本命。あの人、ぜったい金持ちだと思うぜ。ラギだって気づいてるはずなのに、上客として扱ってないのがふしぎでさ(中級男娼に相手をさせる意味がわからない)。……シノさんって、キリコも贔屓にしてないし、いっそのこと、ハルがもらっちまえばいいのに、」
アダシノもトキツカサも、紳士的な容姿とは裏腹に、壺の間では激しい性行為を強いられるため、ハルチカには不得手な男だった。アカラギを思慕するハルチカにとって、他者との肉体関係は仕事として割り切っていたが、ヒョウエは愉しむ余裕さえあるようだ。
「そんな云い方やめてくれ。おれ、割札なんて誰にも渡さないから……、」
「えー、枕席の相手を選べるのは上級男娼の醍醐味じゃんよ。特権を使わないなんて、勿体ねぇなァ。」
云うだけいって退出したヒョウエは、ひと月ほど前、アカラギの案内にしたがってアダシノと性交し、その後も何度か枕席に呼ばれたが、相手が満足していないような気がしてならなかった。
✓つづく
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる