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〘45〙朱鷺士氏
しおりを挟む夜鷹坂という看板をかかげ、夕刻から明朝にかけて営業する娼館が、都会の高層マンション群を抜けた先の花町にある。男の芸者が酒類を提供し、最終的には着物を脱いで性サービスをする商売で、連日のように賑わっていた。
壺の間に利用客を通したアカラギは、控えの間で待機する上級男娼を迎えにいった。
「ハルチカ、準備はいいか。」
「いつでもどうぞ。」
化粧をして上等な着物を身につけたハルチカは、結髪(首のうしろで一本に束ねて丸めた髪)に赤珊瑚のかんざしを挿している。全体的におちついた色調で、薄っすらと笑みを浮かべるハルチカの表情はあかるい。多少は緊張していたが、膝に力をこめて立ちあがり、壺の間へ向かった。
「……トキツカサって貴族、哥さんなら知ってるよね。」
「これから三日間、おまえが性交される男だろ。」
「そうじゃなくて……、」
「今さら弱音でも吐きたくなったのか? あいにく、手遅れだ。きっかり三日間、紳士に浄土の夢を見させてやれ。ただし、暴力は利用規約に反する。程度にかかわらず、すぐに俺の名前を呼べ。……おまえこそ、粗相だけはするなよ。」
「わ、わかってるってば。……人でなし(小声)」
好きな男によって壺の間へと導かれるハルチカの心境は複雑だが、アカラギが軽口をまじえて会話に応じるため、いくらか気持ちが楽になった。仕事とはいえ、初対面の男と性交渉を強いられるハルチカは、先を歩くアカラギの背中にしがみつきたい衝動に駆られたが、苦心して鎮めた。
ああ、哥さん、哥さん……
おれは、あんたが好きだ
本当は、あんたにだけ
抱かれていたいのに……
こんなに好きなのに……
あのとき、どうしてもっと
おれを毀さなかったんだ
……哥さん、おれは
こんなにもあんたが……
「着いたぞ。」ハルチカの思いは、アカラギの知るところではない。少なくとも、夜鷹坂に身を置くかぎり、ふたりのあいだに変化は望めない。すべては花町で生き抜くためである。無慈悲で寛容な月日に、ハルチカの心身は激しくゆさぶられてゆく。
「此度は、ご指名いただき、恐悦至極に存じます。上級男娼のハルチカと申します。どうぞ、存分に可愛がってくださいませ。」
膝のまえに両手をそろえ、深々とお辞儀をしたハルチカは、ふだんどおり挨拶すると、相手の顔を見据えた。アカラギは廊下に坐して、室内の物音に耳をかたむけている。性行為がはじまると(衣擦れの音を確認すると)、静かに立ち去る流れだ。
「トキツカサさま……?」
若そうな容貌に見えたが、白髪の本数が目立つ紳士は、なぜか無口で名乗らない。酒のはいった勢いでハルチカの肩を抱き寄せて接吻すると、スーツの上着を脱いでシャツの釦を解いた。やや筋肉質な体躯は、紳士にしては逞しく、上背もあり、ズボンの内側で早くも勃起している逸物は、タカムラと等しく巨根のように見えた。反射的に怖気づき、ゴクッと唾を呑むハルチカだが、タカムラとの経験が(二度も)あるため、すぐさま気を取りなおした。
「あんッ、いけません。少々お待ちください。」
着物の衿を引き裂くような手つきで裸身にされたハルチカは、紳士の躰を横たおらせると、馬乗りになって男のベルトを外した。ズボンと下着を少しずつさげていくと、思ったとおりのデカブツが、ボロンッと飛びだした。太くて長い逸物だが、男娼にも意地がある。まずは主導権をにぎり、紳士を愉しませることにした。
✓つづく
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