曙花町男娼夜鷹坂

み馬

文字の大きさ
上 下
32 / 165

〘32〙外出許可

しおりを挟む

 花町の地下水から毒性の微生物が検出され、消毒と工事がはいることになった日、夜鷹坂よだかざかをはじめ、多くの娼館が臨時休業となった。

「え? もう一回って、」

「おまえたちに三日間の休暇がでた。外出も可能につき、これが通行証だ。みせをでるときは、帳場に提示すること。」

 昼まえ、ハルチカの自室へやたずねたアカラギは、紐付きの通行手形を差しだして云う。上級男娼〈溫治〉と〈夜鷹坂〉の文字が彫刻刀で掘ってある。アカラギの筆致かどうかは不明だが、力強さを感じる字体だった。

「外にでていいの?」

 起きたばかりのハルチカは、布団をたたむ動作を途中でやめ、手形を受けとると、じぶんの名前を見つめて聞き返した。

「三日のあいだ好きな場所で過ごして構わないと、それが楼主ろうしゅ言伝ことづてだが、食あたりには注意しろよ。地下水から異常が検出されたそうだ。」

 つかの間の自由を手に入れたハルチカは、理由など頭にはいってこず、表情があかるくなった。

「哥さんも休めるの?」
「俺は仕事がある。」
「仕事って、なんの? せっかく三日も休めるのに、おれひとりじゃ満喫できないよ、」
「花町を案内できる人間を探してやろうか、」
「誰でもいいわけじゃない。おれは、哥さんじゃなきゃいやだ。」
「わがまま云うな、」
「そっちこそ、たまにはやさしくしてよ。おれは、こんなにも哥さんのことが……、うむッ!?」

 科白せりふの途中で接吻を喰らったハルチカは、不意打ちすぎて反応が遅れた。アカラギの口唇くちびるが離れていったあと、ドクンッと心臓が高鳴った。

「に、哥さ……、」

「つづきは後まわしだ。きょうは、おとなしくしていろ。あすの朝、おまえを迎えにきてやる。外出する準備をしとけよ。」

「……え、 えっ?」

 障子戸をしめて退出するアカラギは、吹抜の階段をおりていく。生活空間でもある六畳間に残されたハルチカは、しばらくほうけて立ち尽くした。

「に、哥さんに、キスされた……、哥さんと、外出デートできる……?」

 思わぬ展開だが、たとえわずかでも、アカラギの時間を占有できるハルチカは、上機嫌となって着がえをすませると、あすはなにを着ていこうか箪笥を全開にして悩んだ。

「哥さんは渋い着流しが定番だけど、おれの場合、薄物うすものしかないからなぁ。どんな恰好かっこうすればいいのか、わからないや。男娼の着物は、さすがにないよな。」

 ばさばさと着物をひろげていると、めずらしくヒョウエがやって来た。

「ハールーチーカ、いる?」

「いるよ。どうぞ、はいって。」

 障子戸の隙間から顔をだす雹ヱヒョウエは、ハルチカよりあとに中級男娼となった十八歳の青年である。クセ毛の短髪だが、前向きな性格で、誰に対しても敬語を使わないため、度胸のよさと活発な雰囲気は、利用客にも評判となっている。

「どうかしたの、」
「うん。もう聞いた? きょうから三日間、男娼は休みなんだって、」
「聞いたよ。」
「ハルチカは、どうするんだ?」
「きょうのところは、どうもしないかな。……あしたは、ちょっと花町をふらついてみようかと思って、」
「だよな。せっかくの自由行動だもん。出かけなきゃ損だよな。花町に興味はねーけど、ハルチカが外出するなら、おれもいっしょ、、、、に行こうかな!」 
「え……、」
「いいだろ? どうせ暇同士なんだし、」

 アカラギとふたりで過ごしたいハルチカは、ヒョウエの誘いを断る理由を考えるため沈黙した。しかし、なかなか思い浮かばないため、話題を変えることにした。

「なあ、ヒョウエはいつから、夜鷹坂にいるんだ?」
 

✓つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...