曙花町男娼夜鷹坂

〘25〙極楽浄土

　辰臣タツオミは童貞につき、性交渉の手順は、まるきり素人だった。溫治ハルチカに誘導されるかたちで、挿入に挑戦する。

「こ、こうですか……、」

「そう、当ってるよ。最初は強めに押し込んで、尖端さきが這入はいったら、ゆっくりと、好きなところまで進めていいよ。」

「……承知しました。で、では、挿いれさせていただきます。」

　妙にかしこまるタツオミだが、ハァハァと呼吸は乱れぎみで、ハルチカの裸体に興奮していた。布団のうえで四つん這いになるハルチカは、背後から体重を被のせてくるタツオミの息づかいを感じながら、体内に挿入された異質な肉塊かたまりに、悦よがってあえいだ。

「あァんッ！　な、なんだ、できるじゃないか……、ちゃんと、まっすぐ這入ったね……、んッ、んッ！」

「ハルさん、ハル……さん……ッ、」

　初めての手応えを得たタツオミは、小刻みに腰をふり、下肢を密着させたままハルチカの胴体に腕をまわし込むと、男娼の逸物を軽くにぎり、何度か擦りあげた。

「んんッ、タツオミさまァ……、そこ、い……いい……ッ、」

　まったく抵抗しないハルチカの従順な態度は、タツオミの精力を増長させ、いよいよ、理性の抑制がむずかしくなった。

「ハルさん、ハルさん！」

「あんッ、ぁんッ、……タツオミさまったら、なかなか立派な腰つきだね。……ハァハァッ、いいよ、もっと突いておくれ……、ふたりでいっしょに、極楽浄土へ行こうじゃないか……、」

　淫らな科白せりふでタツオミを欲情させるハルチカは、いちど目の絶頂に達した。つられて、勢いよく男娼の体内領域に愛液を放流したタツオミは、青ざめた。

「す、すみません、今、抜きます……ッ、」

　あたふたと腰を引くタツオミの反応が可笑おかしいハルチカは、つい吹いてしまった。

「ねえ、ちょいと、そんなにあせらなくても平気だよ。……お忘れかい。あたし、、、は男の娘だよ。万が一にも、妊娠なんかしやしない。思いきり、中に出したって構わないんだ。」

「は、はい、そうでしたね……。ハルさんは、その、とてもきれいな人だから、ぼくなんかが孕はらませては、どう責任を取ればいいのかわからず……、でも、あなたとならば、夜逃げしても構わないと思って……、」

「へえ、うれしいね。ずいぶん気に入ってくれたようじゃないか。……かわいい人だね、タツオミさん、、、、、、は、」

「かわいい？　ぼくがですか？」

　ハルチカは躰の自由がきくうちに、体位を変えた。タツオミがどんな顔をしてじぶんを抱いているのか、少し気になったので、仰向けに寝転んで股をひらいた。

「さあ、来ておくれ。まだ、やれるだろう？」
「え、い、いいんですか？」
「なにが？」
「だって、さっき、もう中に……、」
「あれだけで満足したのかい？　時間なら、たっぷり残ってるよ。遠慮する場面ではないけれど、タツオミさんの好きにおしよ。……勃起してるしね、」

　ひと晩で、数回抜き合うのが当たり前の枕席において、タツオミは律儀にいちどかぎりで終わらせようとした。大金を払っているわりに、欲張らない性格は、損をするタイプでもある。ハルチカのほうから誘導し、こんどは正常位で肛交した。必死に腰をふる青年は、息が詰まる生活から現実逃避をするため、娼館へ足を運んだと白状した。ズッズッズッと、ハルチカの肉体を欲望の逸物で突くたび、頭のなかに極楽浄土が見えてくる。あと少しでたどりつく新境地は、ハルチカが享受する快楽あってこその充足感であり、恋愛感情を抜きにして濃厚な性交渉を経験したタツオミは、以降も夜鷹坂を利用し、ハルチカを贔屓する客となった。


✓つづく