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〘23〙マブダチ
しおりを挟む「ハル、ハルッ、ハールーチーカ~ッ、」
「わ、ヒョウエ。なんだよ、いきなり!」
夜明けの風呂場で、湯船に浸かっていたハルチカは、中級男娼の雹ヱと出喰わした。全裸で突進してくるため、バッシャーンッと、湯水が飛び散った。
「あ、危ないだろ、怪我でもしたら、どうするんだよ。」
「これくらいで、怪我なんかしねーよ。それより聞いたぜ、ハル! ついに昇級したンだってな。夜鷹坂じゃ、ふたり目の上級男娼の誕生だ。おめでとー!」
おそれを知らない無邪気なヒョウエは、強面の楼主から聞きだしたらしく、最初の祝辞をもらったハルチカの心境は、複雑だった。試験に合格したあと、身のまわりの品々を上等に変える手間があり、七日の余暇をあたえられたが、忙しなく時間は流れ、アカラギとゆっくり話す機会に恵まれていない。一刻も早く、痴態の釈明をしておきたくて悩ましい日々を送るハルチカは、ヒョウエに顔をのぞき込まれ、ハッとなる。
「な、なに?」
「ハルって、近くで見ると女顔だな~と思って。キリコのお得意さまで、化野って紳士がいるんだけど、たぶん、ハルの顔なら好むだろうから、こんど紹介しておくぜ! 指名されたら、おれにも手柄を分けてくれよ! なんてなッ。」
後日、本当にアダシノに呼びだされることになるハルチカは、上級男娼として気に入られ、ますます拍車がかかる。唯一の存在であった桐凅としては、贔屓の客を寝取られた気分でもあり、ヒョウエの仲介があったとは知らぬため、ハルチカに対して友好的な感情をもつことはできなかった。
「ヒョウエは、いつもそんな調子なの? 男娼って、それなりに稼げるけど、楽しい仕事じゃないだろ。」
「えー、おれは楽しんでるけど? 客のちんこを見ると、わくわくするし、エッチするのも嫌いじゃない。いちばんゾクゾクするのは、髙邑の巨根に思いきり突かれたとき! ハルなら、わかるだろ?」
ヒョウエはそう云って、湯の下でハルチカの太腿に手のひらを乗せた。
「……た、確かに、大きかったけど、おれは、その、あんまり好きじゃない。」
「もしかして、ハルには、好きなタチ専がいるってこと?」
「どうして、そうなるんだよ、」
「だって、最高に気持ちよくなれる理想的な性器があると、つい、比べちゃうだろ。」
ヒョウエは、タカムラの肉体を絶賛しつつ、男娼として相手にする客では、いまいち満足できないという。その気持ちに同調する部分を認めたハルチカは、アカラギへの思いが溢れだし、大粒の涙をこぼした。あわてて湯水で顔を洗い、ヒョウエに気づかれる前に脱衣場へ移動した。
「おれの莫迦、なんでこんな……、泣いたって、どうにもならないのに……、」
ボロボロと勝手に頬をつたう涙を指で拭い、長風呂で火照る躰をうちわで冷ました。肌着の腰紐を結んでいると、ふたたびヒョウエが近づいてきた。
「ハル、眼が真っ赤じゃん。」
「こ、これは、最近、疲れがたまってて、つい、長風呂をしたら、こうなったみたいで……、」
「ふうん? それなら、帳場に行けば、ヒシクラが目薬を用意してくれるぜ。」
「そう、わかった。ありがとう、ヒョウエ。……おやすみなさい、」
「おう、またな、ハル。ゆっくり休めよ。」
ぎこちなく立ち去るハルチカに、手をふるヒョウエは、男娼仲間であり、友人と呼べる青年だった。しかし、タカムラが発見した当時、今では考えられないくらい手に負えない糞餓鬼だった。
✓つづく
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