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〘20〙アダシノ
しおりを挟む「ご指名いただき、恐悦至極に存じます。ハルチカと申します。どうぞ、ハルとお呼びください。……今宵は、存分に可愛がってくださいませ。」
膝のまえに両手をそろえ、深々とお辞儀をしたハルチカは、化野という男に呼びだされ、壺の間で挨拶を交わした。
「きみが、ハルチカくんか。なるほど、うわさどおり見目麗しい。さあ、頭をあげて、こちらへ来なさい。」
「かしこまりました。」
アダシノは馴染み客のひとりで、貴族の嫡子だが偽名を使い、なぜか身分を隠していた。三十路の紳士で、体格も均整がとれている。キリコやヒョウエは、「シノ」「シノさん」と親しみを込めて呼ぶ。アダシノとは今夜が初手(1回目の性交渉)となるハルチカは「アダシノさま」と丁寧に呼んだ。
化野は男娼の扱いに馴れており、迷いのない手つきでハルチカの着物を脱がせていく。
「おや? これはもしや……、きみは、かわらけなのかい。」
ハルチカの陰部を見て「ほう、」と目を見張るアダシノは、そっと指を這わせ、なめらかな感触を捉えた。「めずらしいね、」と感心する。成熟したあとも恥部に毛が生えなかったハルチカは、「そのようです、」と応じ、布団の上に仰臥した。アダシノもシャツを脱いで半裸になると、男娼の首筋や胸板、腹部や臍などを舐めまわし、やがて、太腿の内側へ顔を埋めた。陰部の尖端を咥えこまれたハルチカは、「あんッ、」とひと声なき、ビクンッと腰を浮きあがらせた。
「かわらけの男娼とは、気に入ったよ、ハルくん。これからは、きみも贔屓にするとしよう。」
「あ、ありがとうございます……、」
恥毛について高く評価されて困惑するハルチカだが、長い指を体内へ挿入されると、必要悪な痛みを感じた。とはいえ、身体作用は至って従順で、アダシノの指づかいに反応し、陰茎は張りつめて硬くなった。
「きみは、素直で良い子だね……。」
アダシノはハルチカの陰茎を強めに擦りあげて興奮を煽った。耐えきれず絶頂に達したハルチカは、勢いよく射精した。アダシノはズボンの前をひらいて雄える男根を取りだすと、正常位でハルチカと肛交した。入りにくい尖端をグチュッと押し込み、深いところまで挿入すると、腰を上下にふる。
「ぁはッ、ぁんッ……、アダ……シノ……さまァ……ッ!」
紳士的な容姿とは裏腹に、性交中のアダシノは猛獣のような腰つきで、激しく内奥を突かれるハルチカは、ビクビクッと手足が痙攣した。できるかぎり股をひろげてあえぐハルチカは、アダシノの熱い欲望が体内の空洞へ流れ込んできた瞬間、天井や壁にチカチカと星が散るまぼろしを見た。互いに濡れたあとも腰を密着させたまま手足を絡ませ、濃厚な時間を過ごした。
以降、ハルチカを指名するようになるアダシノは、キリコやヒョウエとも享楽に溺れ、節操なしを演じていたが、その正体をアカラギに見破られることになる。しかし、夜鷹坂に大金を落とす馴染み客を、そう簡単に手放すわけにはいかない。アカラギは、アダシノの素性を承知したうえで、娼館への出入りを黙認した。商売繁盛を優先し、新たな事業に着手する資金源の確保は、左腕の頭脳が為せるわざである。タカムラには必要最低限の事情を報せ、今夜もまた、アカラギは闇夜を暗躍する。なにも知らないハルチカは、紳士の腕のなかで淫らに肌を濡らし、刺激と快楽に身を委ねた。
季節は盛夏、急な暑さが加わって本格的な夏を迎えた花町では、盂蘭盆会の提灯を吊るす風習があった。
✓つづく
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