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〘17〙お披露目
しおりを挟む夜半になり、楼主に呼びだされたハルチカは、初日のお披露目という、夜鷹坂で働く男娼はかならず経験する儀式(採点)を受けた。
「今ごろ、あんあん泣かされてるんじゃねえか? 万が一、仕置き部屋送りになったら、あいつを購いあげてやってもいいが……。」
「あいにく、そんな腰抜けに仕上げた覚えはありませんよ。」
「通過する自信があるってか?」
「そのように教育したので、夜鷹坂で七人目の男娼は、ハルチカとなるでしょう。」
帳場に坐る髭面のヒシクラは、ハルチカの見た目を気に入っていた。男娼との恋愛沙汰は御法度だが、利用客になりすまし、必要な金銭を払えば性サービスの提供は許容範囲とされている。アカラギが帳場に足を運ぶことは日常的で、備品の注文書をヒシクラに手渡すさい、ちょっとした立ち話におよぶ。
「おまえ、あいつのこと、どう思ってるんだ。」
「どうとは?」
「いくら性教育とはいえ、ひと月かけて抱きつぶしたのは、あいつが初めてだろう? 相性でも良くなけりゃ、続かないはずだ。」
ヒシクラは野暮な考察をしてアカラギの本心をさぐろうとしたが、「そうですね、」と、淡淡とした相槌だった。
「その首筋の傷痕、ハルチカの仕業だろう?」
アカラギは着物の衿に手を添え、指摘された部位へ視線を落とした。
「この程度の不始末は、よくあることです。俺の油断がまねいた結果で、ハルチカの思惑など、たかが知れています。」
「なら、たまには指名してやることだな。おまえのところになら、あいつはよろこんで抱かれにくるだろうさ。」
男娼には、上級、中級、初級といった格付けがあり、ハルチカはタカムラの採点により、中級の称号をあたえられることになる。階級は金銭にかかわるだけでなく、性サービスを提供する相手の身分も変わってくるため、上級の男娼は、ほぼ固定客と枕席に侍ることになる。
「おれは、あいつの躰に興味があるからな。最初のうちは客取りに巻き込まれて難儀するだろうが、そのうち、じっくり味わってみるつもりだ。」
ヒシクラの発言に「ご自由に。」と返すアカラギは、微かに顔をしかめた。男娼として実力と経験が伴わなければ、花町でのハルチカはヒヨッコ同然である。しかし、本人の努力次第で成り上がることも可能につき、アカラギはその過程を近くで見まもるべき立場となっている。下働きをするハルチカの姿に目星をつける客も幾人か存在するため、幸先には、よい前兆があった。
「ラギ、」
名前を呼ばれて顔をあげたアカラギは、いつになく神妙な表情をするヒシクラと目が合った。
「まだなにか?」
「否、なんでもねぇよ。引きとめて悪かった。……おまえさんはいったい、どんな夢を見るのかと、ちょいとばかり気になっただけさ。」
しっしっと、小虫を追い払うように手を振られたアカラギは、「失礼します。」といって、帳場をあとにした。初日のお披露目を受けるハルチカは、朝まで楼主に組み敷かれて意気消沈となるが、アカラギの手ほどきがなければ、性行為の最中に(身のほどをわきまえず)タカムラを蹴り飛ばしていただろう。アカラギと離れたくない一心で乗り越え、同時に、あまりにも図々しい楼主のおかげで、大胆さを身につけたハルチカは、桐涸や雹ヱといった男娼たちと、切磋琢磨していく。
夜ごとの狂乱明け、下働きが掃除に洗濯にと忙しく動きまわる時刻、楼主に呼ばれたアカラギは、全裸で横たわるハルチカを引き取り、自室へ運んだ。疲れきって熟睡するハルチカは、自分自身の軀を、桜の花びらで埋葬する夢を見た。
✓つづく
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