曙花町男娼夜鷹坂

〘９〙一月三日

　しんしんと雪が降り積もる新年早々、成人年齢に達したハルチカは、正月の宴会で賑わう大広間をよそに、アカラギの手によって身体の開発が始まった。

「これは生物なまものといって、疑似ぎじ陰茎だ。」

　入門書を読み進めるたび、アカラギの指導は、きわどくなってくる。今回の実習内容は、性感帯を調べることらしい。肌着姿のハルチカは、ゴクッと唾つばを呑みこんだ。「横になれ、」と指図され、あらかじめ敷かれた布団に仰向けになると、遠慮なく前をひらかれた。

「哥にいさん、そんなの挿いれたら、痛そうなんだけど……、」

「挿れるのはあとだ。まずは、俺の指でほぐす。身体作用を誘発されても、いっさいがまんする必要はない。」

　云いながら、アカラギは自身の唾液で指を湿らせると、ハルチカの股のあいだへ腰をおろした。膝を立てて左右にひらかせると、片方の手で陰茎を持ちあげ、交接部の穴へ指を添える。

「人差し指から挿れていく。痛くても抵抗するなよ。この程度の異物を不快にとらえては、生物はおろか、男の逸物を歓迎するのはむずかしい。……力を抜いていろ。」

　天井を見つめて小さくうなずくハルチカは、ついに体内領域への侵入を赦ゆるした。いくら一本目とはいえ、極度の緊張で肩や腰がふるえた。アカラギはハルチカの性感帯をさぐるため、下肢に視線を集中させ、慎重に指を動かしてゆく。

「……ッ!?」

　ふいに、ハルチカがビクッと全身を硬張こわばらせた。なにかを確信したアカラギは、指を二本に増やし、ハルチカの興奮を内側から煽あおった。

「……な、なに？　そこ、なんかいや、……ねえ、哥にいさん、そこは、いやだ……ッ、」

「厭いやなわけあるか。素直に感じて、もっと淫みだれてみせろ。なるほど、わりと浅いな。このあたりでおまえは過敏になるのか。……いいか、こうして相手から指で刺激されても、ぜったいに拒絶するなよ。むしろ、腰でもひねって、気持ちいいと口走っておけ。」

　ハルチカの交接部を拡張するアカラギは、指先に強弱をつけ、無理やり生理現象を引きだした。涙目で困惑するハルチカは、「やッ、いやッ、」と、腕をふりまわした。大げさに抵抗されては厄介につき、アカラギは指を挿入したまま反対の手で陰茎を擦すりあげてやると、ハルチカの反応が変化した。

「ぁんッ、あんッ、……んんッ！」

　これまでにない快感に支配されるハルチカは、ひっくり返ったカエルのように手足を投げだし、ビクビクと躰のあちこちが痙攣した。前とうしろを同時に煽られては、頭がおかしくなりそうだった。

「哥にいさん……ッ、わかったから……、おれの感じるところ、そこ、、だって、わかったから……、その指、もう抜いてぇッ！」

「おまえがイッたらな。」

「い、いやだ、う、うあーーーッ!!」

　ビュルルルッと、アカラギの手のうちに勢いよく射精したハルチカの絶叫は、宴会の騒ぎ声に消され、誰の耳にも届かなかった。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ!!」

「おちつけ、たかが指でイカされたくらいで取り乱すな。」

　なにやら注意されたが、ハルチカは反論するより先に顔をしかめた。

「そ、それ……、ハァッ、ハァッ、どうしても挿れなきゃだめ……？」

　疑似陰茎を手にするアカラギは、無論だという。内側がほぐれ、表面が精液で濡れている状態ならば、すんなり奥まで挿入できるはずだ。実物じつぶつが体内をどう圧迫するのか、その感覚を事前に知っておかなければ、あすからの性交渉がつらくなる。ひと月でハルチカを仕上げるよう指示されたアカラギは、わずか四日目にして、ハルチカを抱くしかなかった。


✓つづく