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〘4〙サザンカ
しおりを挟む夜鷹坂という看板をかかげ、夕刻から明朝にかけて営業する娼館が、都会の高層マンション群を抜けた先の花町にある。男の芸者が酒類を提供し、最終的には着物を脱いで性サービスをする商売で、連日のように賑わっていた。この手の風俗業は、法律に引っかかると思いきや、出店の許可証すら発行される始末だ。わが国の治安と政治家の頭は、意外なほどゆるい。
「溫治、指名がはいった。サザンカだ。」
「はいよ、ラギさん。」
案内役の赤羅城は、まだ経験のないハルチカの性教育を担当した男で、髪の毛一本から足の爪先まで、すべての部位に触れたうえ、体内領域を丁寧に開発した世話係である。夜鷹坂には三つの隠語があり、サザンカとは贔屓客を指す。つまり、性サービスをするさい、たっぷり尽くせという意味が含まれた。
「どうした、早く仕度しろ。客を待たせるな。」
「わかってるってば。そう急かさないでくれる? 最近、疲れがたまって、あちこち痛むんだよ。」
「ならば、湿布を用意しておこう。」
「べつに、ただの性交痛だから、放っておけば自然に治るって。いちいち云わなくても、知ってるくせに。……ねえ、そこの帯をたのめる?」
控えの間で身仕度をするハルチカは、二十歳の若者で、指名客の多い男娼である。初めてアカラギの逸物で腰をゆさぶられた夜はひどく興奮して取り乱したが、客を相手にするさいは、至って従順な態度で応じている。楼主のタカムラいわく、ハルチカの尻穴は雄えた客のいれもので(実際は挿れものと書く)、男の受け身である以上、肛交してこそ利用客を充分に愉しませることができた。それから、食べものに困らない生活は、ハルチカの自尊心を鈍らせている。
アカラギの首筋には、いつかのハルチカが噛みついた痕が残っていた。着物の衿で隠していたが、いつのまにか手を添える癖がつき、その仕草を見かけるたび、ハルチカの咽喉は小さく痙攣した。手足は客の腕のなかにあっても、脳裏に浮かぶ顔は、好いた世話係の男なのだ。
「あのさ、たまには咥えてあげようか? 哥さんの玉茎、形がよくて好きなんだ。」
陰部を指す性語を口走り、薄っすら笑みを浮かべるハルチカだが、帯紐を巻くアカラギは、わざとらしく溜め息を吐いて首を横にふる。
「生意気な口をきくな。俺を挑発する余裕があるならば、そのぶん客をよろこばせてこい。」
「云ってくれるじゃん。二年前、おれの尻穴を掘りまくってたのは誰だっけ。……もしかして、哥さんってS気質?」
「ハルに見境をなくすほど、欲求不満ではない。おまえに手ほどきしたのは、仕事のうちだ。」
あくまで性教育だったと主張するアカラギは、男娼の名前を略して呼んだ。ふたりきりの空間では、世話を焼くアカラギのほうも、言動に気を配る必要はない。
「吝嗇。」
「俺に期待するな。」
肩を押されて廊下にでたハルチカは、「ちぇっ」と舌打ちをした。世話係を哥さんと慕うようになったのは、いつの頃からだったか。夜鷹坂で働くようになって三年目、ハルチカは好きな男によって枕席(性交をする寝室)へ案内される日常を送っていた。
✓つづく
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