恭介の受難と異世界の住人

み馬

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番外篇

恭介とジルヴァン

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 ある朝、恭介が事務内官として、コスモポリテス城の東棟にある執務室へ向かっていると、男女の官吏とすれ違った。どちらも真面目まじめそうな顔つきをしており、進行方向から歩いてくる恭介と目が合うと、ペコッと会釈えしゃくして脇を通り抜けた。

(へぇ、なんか、めずらしくまとも、、、なふたり組だったな……)

 異世界に飛ばされてからというもの、シリルとゼニス、ザイールとボルグ、ユスラとシグルト、ジルヴァンやアミィといった、個性豊かなふたり組が多い。恭介がまれた国と文化や風習は異なるが、人の営みに大きな違いはなく、誰もがそれぞれの立場で毎日をきている。事務内官とはいえ、城勤しろづとめをしていると、内政事情も耳に入ってきた。

「今のって、あの、、有名な……、」
「ええ、きっとそうだわ。だってほら、黒髪だったし。横髪は染めてるみたいだけど、」
「やっぱり、彼が流言うわさの事務内官か。」
「本物を見たのは初めてだけど、想像してたより、いい男ね。取り立て屋みたいなことをしてるって話を聞いたから、もっと強面こわもていかつい男性ひとなのかと思ったわ……。」
「名前は確か……、イシカワ? キョースケとか、なんとか……、」
「ずいぶん、変わった名前よね。まさか偽名とか? さすがに隣国の密偵……っなんてことは、ないわよねぇ。でも、お金にうるさい男らしいから、お嫁さんがいたら苦労してるんじゃないかしら、」
「はははっ、確かに。事務内官って、やけに神経質で、節約生活とかしてそうだよな。贅沢な暮らしとは、無縁っぽい感じ。」

(って、おい、おまえらもか! ったく、ツッコミどころ満載だぜ!)

 なにやら不愉快な陰口を耳にした恭介は、思わず眉間に皺を寄せた。自分としては規則にそって業務を遂行しているにすぎないため、口うるさいだけの事務内官として見られては、納得がいかない。ピタッと足をとめ、背後を振り向いたが、ふたり組は廊下の角を曲がり、見えなくなっていた。

(……ったく、どの世界にも、あんなふうに、偏見で他人ひとを笑うやつらっているンだな。……いちいち訂正するだけ、時間と労力の無駄か?)

 呆れて肩をすぼめる恭介は、右手の人差し指に視線を落とし、黒翡翠ジェダイト輪具リングを見つめた。この国の第6王子である〈レ・ジルヴァン=ラフェテス=エリュージオ〉は恭介の恋人であり、ジルヴァンにとって恭介は、王室公認の情人イロである。いつ、いかなるときでも、第6王子からの呼び出しは優先すべき事柄であり、共寝の誘いを受けることは名誉なことでもあった。

(最初はマジかよって思ったけど、人間ってのは、どんな環境や立場に置かれても、それなりに慣れるようにできてるンだな……)

 自らの順応力の高さに驚きもしたが、色々な経験を通じてコスモポリテスで生きていく決意を固めた恭介は、できるかぎりジルヴァンに寄り添える地位をのぞむようになり、やがて、文官試験に挑戦し、見事やり遂げることになる。

(そろそろ……だろうな……)

 予感がした。恭介が恋人への想いに馳せるころ、ジルヴァンは側仕そばづかえのアミィに伝言を頼んでいた。コスモポリテスでは、同性愛について特に定められた法律はなく、もちろん、女性のカップルも存在した。

 豊かな大地は人々の生活環境を安定させ、温和な社会を築きあげていく。コスモポリテスの住人は争事あらそいごととは無縁の日々を送っていたが、平和な暮らしの中であっても、感性の摩擦はしょうじるものである。恭介は、ただ、好きな人のためにりたいとのぞんだ。

(オレなんかを情人イロにした男が、この国の王子とか、今更あれこれ考える必要はない。ジルヴァンは、オレにとって大切な恋人だ。そう思えるようになったのは、いつの頃だったか、忘れちまったな。……必然だったのか、自然な関係だったのか、正直、夢なら覚めないでくれと、今は、現実であることがさいわいに思えるぜ……)

 遺跡ルーインでシリルと出逢い、ゼニスに城まで送り届けられた命は、無駄にはできない。いつか彼らと再会したとき、恭介は胸を張っていられるよう、弱音を吐くことは許されなかった。



「……あっ、あんっ、キ、キョースケ、……キョースケぇ! あぁんっ!」

 その晩、呼び出しに応じて寝台ベッドの上でジルヴァンを抱く恭介は、愛おしい温もりを激しく求めた。恋人として常に寄り添うことは不可能だが、ふたりの想いは深く、誰にも奪われたりしない。つなげた肉体カラダが幾度となく離れようとも、心は結ばれている。

「ジルヴァン、好きだ……、」

「う、うむ……。われも同じ気持ちだぞ……、」

「サンキュー、」

 互いに公私の区別どころではなく、極上の快楽に埋没した。

    * * * * * *
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