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番外篇
ランカとシュイ
しおりを挟むスラッとした細身のランカは、濃い黄色の髪と眼をしていた。シュイは、淡紫の髪と眼をしており、御室堂では恭介の同室者である。
「なあ、キョースケ。あんたのその黒髪って、染めてんの?」
「いや、生まれつきだ。」
「それって、めずらしいよな。」
方卓にひろげた書物へ視線を落としていた恭介は、「みたいだな」と適当に答え、顔をあげた。壁際に寝そべってダラけているシュイは、弱冠二十歳で文官試験に合格した若者である。やや自己主張が強めな性格をしていたが、気随な恋人と付き合う恭介にとって、彼の言動は許容範囲だった。そもそも、健康状態や素行に問題が発覚した場合、高官に昇進することはできず、状況に応じて、文官の資格を剥奪されてしまう。つまり、どのような日常生活を送ろうと、すべて自己責任である。
(……それにしても、定例試験が近いってのに、シュイが勉強しているところを見たことがねぇな。実は天才なのか?)
文官らしく蔵書の管理や雑用、会議などの記録役(書記)として働くのではなく、王族の側仕えを目ざす恭介は、高官による推薦状が必須条件となる。ふだんの生活態度はもとより、月にいちど実施される試験は、平均点を上まわっていなければならない。
(アミィさんも、この道を通ってきたのか。のんびりした人柄だが、見かけで侮れないもンだな……)
文官の資格を取得したからといって、恭介の肩の荷が降りたわけではない。むしろ、始まったばかりである。誰よりも優秀な成績を修める必要はないが、時間を無駄に使うことはせず、日々の勉強は欠かせない。そんな恭介の姿勢を見まもるシュイの日課は、窓の外でやたらと啼き交わす鳥の聲に耳をすませることだった……。
シュイは、地方からやって来た若者で、とくに身分が高いわけではない。だが、ランカの家柄は高官を輩出してきた名家である。とはいえ、育ちで差別するほど、恭介は計算高くない。どちらも合格者の同期で、切磋琢磨する仲間だと思っていた。
いつの間にか、瞼を閉じて寝息を立てるシュイのようすに気がついた恭介は、掛け布団をあてがい、小さく息を吐いた。就寝時刻まで余裕があるため渡り廊下へ向かうと、先客がいた。
「ランカ、」
「キョースケ様、こんばんは。」
考えることは同じのようで、ランカは脇に数冊ほど書物を挟んでいた。難しい文章ばかり読んでいると、頭が痛くなる。恭介は笑みを浮かべ、ランカを散歩に誘った。御室堂の中庭に出ると、武官が身をおく共同宿舎の屋根が見えた。
「星がきれいだな。」
夜空へ腕を伸ばして深呼吸する恭介に、ランカは穏やかな顔をして云った。
「だいぶお疲れのようですが、ぼくと一緒に気分転換をしてくださり、ありがとうございます。」
「なんだ、バレてたのか。」
「キョースケ様は、うっかり感情が顔にでやすいですからね。もしや、無自覚でしたか?」
「マジかよ、それ……、」
ランカも恭介より歳下だが、落ちついた性格をしており、王族の側仕えに抜擢されることを目標としていた。有名な家柄の都合と思われたが、きちんと本人の意志で御室堂に身を寄せ、勉学に励んでいる。
ランカは、困惑する恭介の横顔を見つめ、くすッと笑った。両者は共通の理想を胸に秘めていたが、それを実現するまで、多くを語ることはなかった。
* * * * * *
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