354 / 364
番外篇
異世会計士の心得
しおりを挟む(え、栄養ドリンクが飲みてぇ……)
コスモポリテス城の会計士として、執務室に勤務する石川恭介は、毎日のように届く送り状や請求書や領収証の束を処理する日々に、頭を抱えていた。
(ってか、あり得ないだろ、この量! 今までどれだけ放置してたンだっつーの!)
ここは地球のどこかに存在する異世界だが、電卓やそろばんといった計算機がないため、暗算するか、いちいち書き出していくしかない。数字の扱いに明るい恭介でも、こうも仕事がたまっていたとは思わず、目眩がしてきた。時間軸としては、ジルヴァンの情人として王族に公認された直後から、共寝に呼ばれることなく、仕事に忙殺され続ける日々の場面である。〔第43話あたり参照〕
「ふわぁ~あ、いい天気ね~。なんだか眠くなってきちゃったわぁ。」
新しい伝票に検収印を押すだけのアミィは、恭介の上司で、ジルヴァンの側仕えを兼任する事務内官(正しくは文官)である。オネェ言葉で話し、むっちりとした体形の男だが、意外と腕力があり、受け身でもある。のちに、歳下の〈スガード=サキ=レスレット〉、通称レッドにベタ惚れされることになる。
「なにを呑気そうにしてるんですか、アミィさん。その伝票、ちゃんと内容に目を通してから印判を押してくださいね。なかには不正な書類もありますから、注意して見てください。あとでオレが確認します……って、アミィさん、訊いてます?」
検収印を持ったまま、うとうとするアミィは、神殿の大司祭に就任する〈アレント=ラフェテス=イアンレッド〉を崇拝していたが、その事実を恭介やレッドが知ることになるのは、まだまだ先である。
(アミィは、ジルヴァンの雑用もこなしているわけで、もしかしたら、けっこう疲れてるのかもな……)
仕事中に居眠りとは、本来ならば容認できない事柄だが、恭介は小さく息を吐くと、放っておくことにした。
(とにかく、オレは、やるべきことをやるまでだ。当面の間は、この書類の山をなんとかしないと、通常業務に移行できねーぞ……)
長らく放置されていた部署につき、恭介はまず、掃除や整理整頓から始め、作業スペースを確保した。もとより、コスモポリテスは豊かな国につき、不正を働く官吏といっても、厳罰に処される類のものではなかった。しかし、恭介の仕事は細かな数字を正確に記録する必要があるため、どんな理由であれ、経費を私的に扱う真似は許可できなかった。
(オレは会計士だからな。財務の管理と監査が仕事なんだ。不適正なものがあれば、本人を見つけて注意してやらないと、何がだめなのかわかってもらえないだろう)
これまでのように、多くの誤りを放置しては、管理が行き届かなくなるおそれがあるため、ひとりひとりの理解と意識改善が求められた。
(とくに、ボルグさんだな。あの人は何を買ってんだ。土産物は経費に含まれないからな。却下!)
武官のボルグによる領収証は、恭介の頭を悩ませる原因のひとつだった。間違いは正してこそ、本人のためになる。恭介は席を立ち、ボルグの元へ向かった。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
夏休みは催眠で過ごそうね♡
霧乃ふー 短編
BL
夏休み中に隣の部屋の夫婦が長期の旅行に出掛けることになった。俺は信頼されているようで、夫婦の息子のゆきとを預かることになった。
実は、俺は催眠を使うことが出来る。
催眠を使い、色んな青年逹を犯してきた。
いつかは、ゆきとにも催眠を使いたいと思っていたが、いいチャンスが巡ってきたようだ。
部屋に入ってきたゆきとをリビングに通して俺は興奮を押さえながらガチャリと玄関の扉を閉め獲物を閉じ込めた。
催眠眼で手に入れた男子学生は俺のもの
霧乃ふー 短編
BL
俺はある日催眠眼を手に入れた
そして初めて人に催眠眼を使う為にエロそうな男子学生を物色していた。
エロ可愛い男子学生がいいな。
きょろきょろと物色する俺の前に、ついに良さげな男子学生が歩いてきた。
俺はゴクリと喉を鳴らし今日の獲物を見定めた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる