恭介の受難と異世界の住人

み馬

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番外篇

異世会計士の心得

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(え、栄養ドリンクが飲みてぇ……)

 コスモポリテス城の会計士として、執務室に勤務する石川恭介いしかわきょうすけは、毎日のように届く送り状や請求書や領収証のたばを処理する日々に、頭をかかえていた。

(ってか、あり得ないだろ、この量! 今までどれだけ放置してたンだっつーの!)

 ここは地球のどこかに存在する異世界だが、電卓やそろばんといった計算機がないため、暗算するか、いちいち書き出していくしかない。数字の扱いに明るい恭介でも、こうも仕事がたまっていたとは思わず、目眩めまいがしてきた。時間軸としては、ジルヴァンの情人イロとして王族に公認された直後から、共寝ともねに呼ばれることなく、仕事に忙殺され続ける日々の場面である。〔第43話あたり参照〕

「ふわぁ~あ、いい天気ね~。なんだか眠くなってきちゃったわぁ。」

 新しい伝票に検収印を押すだけのアミィは、恭介の上司じょうしで、ジルヴァンの側仕そばづかえを兼任する事務内官じむないかん(正しくは文官ぶんかん)である。オネェ言葉で話し、むっちりとした体形の男だが、意外と腕力があり、受け身でもある。のちに、歳下とししたの〈スガード=サキ=レスレット〉、通称レッドにベタれされることになる。

「なにを呑気のんきそうにしてるんですか、アミィさん。その伝票、ちゃんと内容に目を通してから印判はんを押してくださいね。なかには不正な書類もありますから、注意して見てください。あとでオレが確認します……って、アミィさん、いてます?」

 検収印を持ったまま、うとうとするアミィは、神殿プロメッサ大司祭カイストリヒに就任する〈アレント=ラフェテス=イアンレッド〉を崇拝すうはいしていたが、その事実を恭介やレッドが知ることになるのは、まだまだ先である。

(アミィは、ジルヴァンの雑用もこなしているわけで、もしかしたら、けっこう疲れてるのかもな……)

 仕事中に居眠いねむりとは、本来ならば容認できない事柄ことがらだが、恭介は小さく息を吐くと、放っておくことにした。

(とにかく、オレは、やるべきことをやるまでだ。当面とうめんの間は、この書類の山をなんとかしないと、通常業務に移行できねーぞ……)

 長らく放置されていた部署につき、恭介はまず、掃除や整理整頓から始め、作業スペースを確保した。もとより、コスモポリテスは豊かな国につき、不正を働く官吏かんりといっても、厳罰にしょされるたぐいのものではなかった。しかし、恭介の仕事は細かな数字を正確に記録する必要があるため、どんな理由であれ、経費を私的に扱う真似まねは許可できなかった。

(オレは会計士だからな。財務の管理と監査かんさが仕事なんだ。不適正なものがあれば、本人を見つけて注意してやらないと、何がだめなのかわかってもらえないだろう)

 これまでのように、多くの誤りを放置しては、管理が行き届かなくなるおそれがあるため、ひとりひとりの理解と意識改善が求められた。

(とくに、ボルグさんだな。あの人は何を買ってんだ。土産物みやげものは経費に含まれないからな。却下!)

 武官のボルグによる領収証は、恭介の頭を悩ませる原因のひとつだった。間違いは正してこそ、本人のためになる。恭介は席を立ち、ボルグの元へ向かった。

    * * * * * *
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