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第350話
しおりを挟むリゼルは頭巾を被っていたが、布地の下では表情に合わせて獣耳が動いていた。恭介は立ち話を変更して東屋へ誘うと、向かい合って座わり、会話を続けた。
「ところで、ふたりは、どうしてコスモポリテスに来たんだ?」
「オレもウルも、元々は、この国で産まれた獣人なんだ。」
「うん? 獣人領で暮らす分には戸籍なんて必要なくないか?」
「ちょっとちがうかなぁ。ウルは群れから孤立したオオカミだし、オレは自然領で産まれたから……、」
「自然領って確か、ここから北緯にある森林地帯だよな。キミの両親は、獣人領を離れて暮らしていたのか……。」
「それもちがうよ。母さんは獣人だけど、父さんは人間なんだ。」
本来ならば、人間と獣人のあいだに婚姻関係は成立しない。それが常識だったが、恭介は異世界の住人ではないため、気にもとめなかった。当然ながら、リゼルの科白は指摘すべき要点が満載だが、恭介はサラッと聞き流す。
「へぇ、だから半獣なのか。オレの前で獣耳を隠さなくてもいいンだぜ、リゼル。」
「キョースケって全然おどろかないんだな。そんなこと云われたの初めてだ。」
「どんな種族にも、生きる権利はあるからな。キミたちを差別する連中は、少なくとも、このオレが赦さないぜ。」
「わっ、かっこいい! 聞いたかウル!!」
「いちいち、はしゃぐな。隣にいるんだから嫌でも聞こえてるよ。」
リゼルは「えへへっ」と、照れながら笑う。その表情がかわいらしく見えた恭介は、とくに深い意味はなく、なんとなく訊ねた。
「キミの母親は、きっと美人だろうな。父親は、どんな人間なんだ?」
「う~ん、母さんは美人というより、いつまでたっても若い感じかなぁ。父さんは傭兵団にいたことがあって、すっごく強いんだ!」
「……傭兵?」
「そう、傭兵! 重たい剣を片手で振りまわせるし、オレも稽古の相手をしてもらったけど、いちども勝てなかったな。……ウルも、けっこう強いよ。よく一緒に森の中で鍛練した仲でさ!」
「ふたりとも、元気で何よりだな。……なあ、リゼル、キミの父親は本当に傭兵だったのか?」
「うん、そうだよ! オルグロストの戦場で母さんと出会って、それから一緒にコスモポリテスを目ざしたって聞いたけど……。今だって、ふたりでどこかを旅してると思う。」
「キミを残して旅に出たのか?」
「心配しなくても、3年後に会う約束をしたから大丈夫だよ!」
恭介はいったん会話を中断し、リゼルの両親について考え込んだ。
(母親が獣人で、父親が傭兵の人間だって? それじゃあ、まるで、シリルくんとゼニスさんみたいだ……。いや、待てよ。シリルくんは両性具有で、妊娠が可能な体質だったよな。……つまり、そういうことなのか?)
恭介は、迂闊すぎる自分に唖然とした。見据えたリゼルの顔に、忘れもしない獣王子の面影が浮かぶ。すると、急に視界がぼやけてしまい、息が詰まった。
「わわっ、キョースケ、どうして泣くの?」
涙で目がうるむ恭介を見たリゼルは、ふしぎそうに首を傾げたが、ウルは眉をひそめた。
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