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第348話
しおりを挟む御室堂の書簡箱には、よく手紙が届く。狭き門を突破した文官見習い生たちは、まとまった休みを取らない限り、実家へ帰ることはない。近況を外部の人間へ報せる簡単な方法は文を出すことで、教官による検閲が必要だった。文官には守秘義務があり、講義の内容を少しでも第三者に漏らした場合、処罰の対象となってしまう。また、家族による個人宛の仕送りなどは各室の前に配達員によって届けられ、廊下に並ぶ荷物の列は、ちょっとした風物詩となっていた。
恭介とシュイが身を置く3番館の書簡箱にも、アミィやレッド、ジルヴァンから共寝の呼び出しなど、恭介宛の手紙が日毎に配達されてくる。ある朝、一通の書状を受け取った恭介は、差出人の名前を見て「うん?」と、首を傾げた。
(これって、ザイールじゃないか! へぇ、神殿の消印が入ってるな)
初めてザイールらしき相手から手紙が届いた恭介は、その場で封を開けた。丁寧な筆文字で安否の挨拶が綴られた後、リゼルとウルが会いたがっている旨が書いてあった。
(……リゼルとウルって誰だ?)
名前だけで人物像がピンとこなかった恭介は、しばらく記憶を巻き戻してみた。すると、獣耳を生やした少年と、オオカミの姿に化ける青年の顔が思い浮かび、「あのふたりか!?」と、声をあげた。内側から扉がひらき、シュイが顔をだす。
「キョースケ? 廊下で何やってんの?」
寝起きのシュイは「ふわぁ~っ」と、欠伸をしながら訊ねる。恭介は書状を折りたたむと、以前世話になった神官から手紙をもらったと告げた。
「神官って、神殿の? キョースケって、顔が広いんだな。……神官と仲良くなっても、あいつらの話は長いし、神を信じよとか云ってくるし、ちょっと面倒臭くないか?」
シュイの個人的意見だが、あながちそうとも云い切れない恭介は、返答をごまかしておく。それから、外出許可を申請するため、講義のあと、マグナに用事の理由を説明した。すんなり承諾され、こんどは恭介のほうで都合の良い日にちを知らせる手紙を書いて送る。書簡取り扱い窓口から室に戻ってきた恭介は、布団を敷いてくつろぐシュイを横目に、着替えを済ませた。
(あの二匹が、オレに会いたがってるのか。……なんでまた、オレなんかに?)
* * * * * *
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