恭介の受難と異世界の住人

み馬

文字の大きさ
上 下
347 / 364

第346話〈導かれし者たち〉

しおりを挟む

 神殿プロメッサの1日は、朝が早い。宿直しゅくちょくの神官は日の出と共に起床きしょうし、礼拝堂の掃除を始める。その後、大司祭アレントに挨拶をして、巡礼者の対応や食事の準備など、やることは多かった。ようやく、ホッとひと息つけるのは午後からだが、神官のほとんどは、積極的に自主学習をする。礼拝堂に隣接する書物部屋へ向かうなり、分厚い祭儀書さいぎしょや難しい教典を読みふける。丸眼鏡まるめがねをかけたザイールは、昼食のあと、礼拝堂のベンチに座り、祈りを捧げていた。そこへ、リゼルとウルが通りかかると、会話が発生する。

「あっ、ザイールさんだ。こんにちは! お務め、ご苦労さまです!」
「これは、リゼルくんに、ウルくんではありませんか。こんにちは。ここでの生活は、もう慣れましたか?」
「まぁな! 最初は、オレたちのことを遠くでヒソヒソ云う連中が気になったけど、ご飯はおいしいし、人間の規則正しい日常は健康的だと思うし、3年経てば国民として認めてもらえるから、がんばるよ!」
「そ、そうですか。……あなた方は人間とは種族が異なるため、あまり好感が持てない者がいるのは確かでしょう。ですが、わたしは真面目に生きる方の味方です。お二人は日々の行動に制限を受ける身ですが、とてもよく辛抱されていると思います。」
「ありがとう、ザイールさん!」

 リゼルがニコッと笑って見せると、ザイールは「おや?」と、首を傾げた。縹色はなだいろ双瞳ひとみの奥に、誰かの面影おもかげを感じ取る。だが、いくら考えても思い当たる人物像が浮かばないため、直接質問した。

「あの、不躾ぶしつけで申し訳ありませんが、以前、どこかでお会いしましたか?」
「え? オレは自然領で暮らしてたから、城下町に来たのも父さんと1回切りだし、たぶん人違ひとちがいじゃないかな。」
「……そう……ですか。どこかで見たような気が……。わたしの勘違いかもしれませんね。失礼しました。」
「ううん! じゃあ、またな。」
「ええ、また……。」

 リゼルとウルが立ち去った後、ザイールは、もういちどよく考えてみたが、やはり、はっきり思いだすことはできなかった。半獣のリゼルは、1年ほど前、神殿に恭介を連れてきたシリルとゼニスの息子である。つまり、ザイールはリゼルの両親と面識めんしきがあった。もっとも、獣耳けものみみをもつ種族がコスモポリテスに存在するとは知らずにいたザイールは、おのれの知識不足を実感した。

「……リゼルくんは、とてもいい子ですが、ウルくんは少し近寄りがたい雰囲気がありますね。……あのふたりは、いったいどのような関係なのでしょう。」

 アレント直々じきじきの勉強会を終えて客間に戻ったリゼルとウルは、互いの寝台に落ちついた。

「ふ~っ! きょうも難しい話だったなぁ。途中から眠くなっちゃったよ。」
「それより、あの神官を気にしろよ。」

 気楽なリゼルに対し、ウルの表情は少し険しくなっていた。

    * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...