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第345話
しおりを挟む恭介とユスラが御室堂へ身を置くようになってから、ひと月が経過していた。東棟の執務室では、レッドとアミィが大量の伝票に頭を悩ませていた。
「マジで、毎日まいにち、なんなンすか、この量は! いったいどうやったら時間内に終わらせることができるンすか!?」
「そうねぇ。キョウくんはいっつも残業してたくらいだしね~。」
「すんません! キョースケ様のように自分がもっと努力しなきゃ、ダメっすよね!」
「いやねぇ。レッドくんはレッドくんなりにイイ仕事してるわよ~。キョウくんと比べたら、そりゃ、色々と劣るけど、無理しなくていいのよ。あなたのペースで成長すれば問題ないわ。」
「……アミーユ様、ありがとうございます!」
アミィの笑顔に手許が狂いそうになるレッドは、あたふたしながら伝票を仕分けていく。事務内官として日々の業務に終われるふたりだが、レッドは、アミィと共に仕事ができるよろこびを実感していた。すべては、恭介と出会ったおかげである。与えられた立ち場に責任を持ち、現在の仕事を天職だと考えた。
「よぅし! 自分がんばるっス!!」
「ふふっ、レッドくんったら、なかなか心臓が熱いわね~。」
「熱い男は嫌いっスか?」
「そんなことはないけどぉ、」
「なら、良かったっス!」
「なぁに、変なレッドくんね~。」
「お気になさらず。自分もっともっとイイ男になりますから、見ていてくださいね。」
「まぁ、それはいいけどぉ、イイ男になる必要なんてあるのかしらぁ。」
「ありますとも!」
「ずいぶんな気合だわねぇ。ひょっとして、好きな子でもいるの~?」
「はい! 目の前に!」
「え? どこ?」
アミィは伝票に印判を押す手をとめ、パッと、顔をあげた。真剣な表情で見つめるレッドと視線が出合い、首を傾げた。
「レッドくん? 今、なんて……、」
「自分じゃ、ダメですか。」
「え?」
「自分は歳下だし、頼りないかもしれないけど、もし、少しでも可能性があるなら、考えてもらいたいっス。」
「何を考えればいいのかしら?」
問い返されたレッドは、ガタンッと席を立ち、アミィの座るところまで移動してきた。それから、募る想いを告げる。
「アミーユ様のことが好きです。恋人として、自分と付き合ってもらえませんか。」
「えっとぉ、えっ!?」
突然すぎて目を丸くするアミィだが、さらにレッドが顔を近づけると、「きゃーっ!!」と、絶叫した。ガタタッと椅子から立ちあがると、「なになに、いきなりじゃないの~!!」と云って、取り乱す。
「アミーユ様が驚くのは当然です。でも、これはちゃんと真面目な話っス! 自分、初めてアミーユ様を見たときから好きでした! この人の笑顔を自分が独占できたらなって、図々しいことばっか考えてます!!」
「初対面のときからですって!? 本気なのぉ!?」
アミィは壁際まで後退し、レッドと躰の距離を保つ。相手の好意に気づけなかったアミィは、急激に恥ずかしくなり、声が震えた。
「あ、あたしなんかを、す、好きになるなんて、どうかしてるわ……。」
「なんでですか? アミーユ様は、とてもかわいらしい人ですよ。」
レッドはそこまで云うと、「すんません」と詫びた。
「ほら、やっぱりダメだ。自分はまだ、あなたに受け入れてもらえないっスよね。だからこそ努力します。告白の返事は、成長した自分を見届けてからお願いしたいっス!!」
どこまでも明るくふるまうレッドに、アミィは呆然とした。
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