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第336話
しおりを挟む恭介がジルヴァンに正体を打ち明ける頃、神殿の客間で生活を始めたリゼルとウルは、会話を楽しんでいた。
「ぷは~っ、ここの食事ってうまいよな~! 母さんが作る料理もまずくはなかったけど、人間って、毎日こんなうまいものばっかり食べてるンだな!」
「……そうか? オレサマは野鳥の丸焼きのほうが好物だがな。」
「あははっ、そうかもな。ウルはいつも野生オーラ全開だから、フォークとナイフなんて似合わないもんな~。そうやってホワイトシャツを着ているだけで、かなり人間っぽく見えるけどさ。」
「ふん、よく云うぜ。おまえこそ、なんだ獣耳は。」
ウルは寝台の上で大の字になっていたリゼルに近づくと、ガブッと、片方の獣耳に噛みついた。
「アイテッ! こら! なにするんだ、ウル!!」
「ちゃんと手加減しただろ。」
「おまえ、この頃なんだかようすが変だぞ? もしかして、人間との暮らしが慣れないのか?」
「生活環境の問題じゃない。オレサマは、おまえと離れるわけにはいかないからな。」
「なんだよ、その云い草……。あっ、もしかして、父さんと何か取り引きでもした?」
ゼニスとシリルのふたりは、クルセイド法国へと旅立っている。そうとは知らないリゼルだが、3年後にコスモポリテス城の門前で再会する約束を交わしているため、両親の行方に不安を感じていなかった。なにより、ゼニスは強い男である。かつては孤高の傭兵でありながら、今は獣王子のためだけに生きている。ふたりの関係は、史上初の半獣を産みだすほど深い絆で結ばれていた。
「今、おまえと在るのは、オレサマの意志だ。誰かに頼まれたからではない。……おまえこそ、勝手に離れたら許さんぞ。」
ふいに、ウルの口調が変化する。真っ直ぐ見おろされたリゼルは、微妙な感情に捉われた。ごろっと躰を横向けると、ウルの指へ目を留めた。少し伸びた爪の先が尖っている。
「……離れるもんか。……云われなくてもオレだって、おまえのそばに居たいと思ってるよ。……オレたちはずっと一緒だ。ぜったい離れたくない。」
思いがけず、リゼルの本音を打ち明けられたウルは、「へぇ」と、笑みを浮かべた。いつの間にか、リゼルの気持ちは信頼と感謝の念から、情愛へと変わっている。ウルは、改めてリゼルの魅力を感じた。ふだんは素直な性格をしているが、恋愛沙汰になると極端に自信をなくす。半獣とはいえ、どちらかといえば人間に近い思考と性質を持っていた。ウルはリゼルの額へ接吻をすると、横に並ぶ寝台へ腰かけた。シャツの釦を解いて裸身になると、肉体を歪ませてオオカミの姿へ戻る。
「おやすみウル。また、あしたな……、」
リゼルはそうつぶやくと、先に眠りに落ちた。二匹の獣人は平和な夜を過ごしている。
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