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第335話
しおりを挟むジルヴァンは恭介に背を向けて横になると、そのまましばらく沈黙した。当初から恭介の容姿は稀少な人種だと思っていたが、聞き覚えのない島国から飛ばされて来たと、理解に悩む過去を打ち明ける。とはいえ、そんな無意味な嘘をつく理由など、いくら考えても恭介側にはないだろうと思えた。
「……つまりキョースケは、生まれた国からコスモポリテスの遺跡に、瞬間移動したのか……。」
ぽつりと、ジルヴァンがつぶやく。恭介は少し間をあけてから「そうかもな」と同意した。いわゆる、異世界転移現象である。決まった法則など、誰も説明できるはずがない。恭介は、ゴソッと寝台から抜け出ると、絹衣を羽織り、円卓に置かれた茶器を使って水を飲んだ。共寝のあとは朝方まで添い寝をすることが多かったが、今夜ばかりは目が冴えて、眠気を感じなかった。ずっと隠していた事実を告げたことで、神経が高ぶっていた。
(にわかに信じられなくても、無理はないからな。……オレだって、ここが異世界だと認識するまで、かなり頭を悩ませたしよ。……ジルヴァンからすれば、オレのほうがイレギュラーすぎる存在だろうし、打ち明けるまでこんなに時間がかかって、結果的に、ショックを与えちまったよな……)
椅子に浅く腰をかけた恭介は、寝台の上でぴくりとも動かなくなっているジルヴァンの背中を見つめた。
(キミは今、なにを考えている? また怒らせちまったか? オレのこと、信用できなくなったのか……?)
あまりにも長い時間、沈黙が続くため、恭介は不安になってきた。ジルヴァンとの関係が悪化しては、この国で努力した意味がない。今更、城から追い出されても、恭介はひとりで生きていく自信がなかった。ジルヴァンを好きになったからこそ、この国で頑張ろうと覚悟を決めることができたのだ。
(……なかなか耐え難い空気が流れてるぜ。打ち明けた時はすっきりしたけど、あとからものすごいプレッシャーを感じるな……)
ジルヴァンは、いつまでも言葉を発しない。寝息は聞こえてこないため、考え込んでいる状況は確かだった。ここはひとつ、恭介のほうから声をかけるべきなのか、判断に悩む展開である。恭介の立場を、きちんと理解してもらう必要がある。
(ジルヴァンの背中が遠く感じるのは、気のせいか? 頼むから、こっちを見てくれ……)
寝台へ近づいてはいけない雰囲気を察した恭介は、ジルヴァンがこちらを振り向くまで待ち続けた。
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