恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第331話〈離れたくない心〉

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 数ヵ月ぶりに、絹衣きぬの服にそでとおした恭介は、(太ったか?)と、一瞬眉をひそめた。脇下の生地が、少し余裕がなくなっている。実際、御室堂おむろどうでの食事は白米のおかわりが自由につき、晩飯の際はいつも二杯ほど食べていた。

(気をつけないと、体形が変わっちまうな……)

 温暖な気候のコスモポリテスに飛ばされた時、日本の季節は秋だった。現在、異国で生活を始めてから1年間がとうとしているため、感覚的には“食欲の秋”が到来している。腰紐こしひもはゆるく巻きつけておき、3番館からジルヴァンの寝間ベッドルームへ向かう。同室のシュイは入浴中につき、念のため置き手紙をしておいた。無断で朝帰あさがえりしたと騒がれては、恭介的にも気まずいからだ。きちんと情人イロである事実を打ち明けた真意は、シュイに、立場の理解を求めるためでもある。

(……よし、気合きあいを入れて行くか。ジルヴァンがオレを待っているはずだ!)

 恭介は御室堂の裏口から造園にでると、天和殿てんほうでんの屋根と外壁に目を留めた。豪勢な建築様式は、異国情緒を漂わせている。自分が別世界に飛ばされた理由は、考えるだけ無駄である。当初は、なんとかして帰る方法を見つけなければと躍起やっきしたが、今となっては、元の世界に戻されるほうが、未練が残る結果となった。

(……オレは、ここで生きていく。……この国で、生きて行きたいんだ。……ジルヴァンのそばを離れたくない)

 今宵こよいは満月である。月が太陽の光を受け、見事に輝いていた。恭介の足取りは自然と速くなり、王宮関係者の出入口まで到着した。直槍すやりをもつ番人は、恭介が情人の認可証を提示する前に、扉を譲った。数ヵ月ぶりだとしても、出入りする重要人物の顔をしっかり記憶しているようだ。恭介は軽く頭をさげ、無言で通過した。カツーンカツーンと、恭介だけの足音が響く石廊の先に、女官が控える扉が見えてくる。

「こんばんは、イシカワキョースケ様。お待ちしておりました。」
「ああ、ジルヴァンに会いに来た。よろしく頼む。」
「はい。中へどうぞ。」

 女官は深々と頭をさげ、扉を開放した。恭介が室内へ進むと、パタンと、静かにざす。円卓テーブルの花瓶に、相変わらずルシオンが世話をする庭園の花が差してあった。第6王子は、寝台ベッドの段差に腰をかけている。枕もとの燭台しょくだいとも蝋燭ろうそくの火が、ジルヴァンの落ちついた表情をほのかに照らしていた。

「久しぶりだな、ジルヴァン。元気にしてたか?」
「ふん。よくうわ。貴様きさまこそ、今までわれに内緒で何をやっていたのだ。」
「怒ってるのか?」
「怒ってない。」
「……そっちへ行ってもいいか?」
「そのような場所に突っ立っていては、何もできぬであろうが。」
「サンキュー、ジルヴァン。」

 もとより、性交渉は必須条件の呼び出しである。恭介は、ジルヴァンの肌にれることが許された唯一の存在だ。情人であるまえに恋人同士であることを自覚して、ジルヴァンのとなりへ腰をおろした。目許めもとのホクロに指で触れ、そっと接吻キスをする。ジルヴァンはからだ硬張こわばらせたが、恭介からの口づけを受けると瞼をとじた。

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