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第330話
しおりを挟む無性愛者と対人恐怖症は、意味がちがう。同室者のシュイは、人間ぎらいだと打ち明けたが、どうも違和感を覚えた恭介は、なるべく慎重に話を進めた。
「シュイはなんで、文官になろうと思ったんだ? オレの場合は、単なる私欲が働いた結果だが……。」
「なんでって、普通だろ。城下町で働くより、官吏になったほうが給料も高いし、こうして早くに家から独立できるし、内官とか文官のほうが安全だし……、じぶん勉強するのは嫌いじゃないし、いくらでも理由なんてあるさ。……ありますけど、」
「シュイ、無理して敬語を使う必要はないぜ。これまでどおりに喋っていいぞ。」
「……あ、そ、そう? なら、そうする。敬語は好きじゃない。」
「奇遇だな。オレもだ。」
「……キョースケって、思ってたよりイイ男だな。」
「うん? また褒め言葉か?」
「最初から褒めてるよ! なんだよ、いちいち説明しなきゃ通じねーのかよ?」
「悪いな。こう見えてけっこう歳を喰ってるからな。」
「ふうん? でも、まだ20代だろ?」
「もうすぐ28歳だ。」
「へぇ、“おっさん”って呼びたかったけど、なんか中途半端だな!」
「おっさんは、やめてくれ。さすがにヘコむ。」
「あははっ、キョースケは実年齢より若く見えるから、大丈夫だろ! 王子様の共寝に貢献してるからか? なんちゃって!」
「そういう冗談はよせ。笑えない。」
「ごめんごめん、ついな! あははっ。」
無邪気に笑うシュイを見た恭介は、なんとなくホッとした。授業の復習をするため、教則本を片手に床へ座ると、シュイがのぞき込んでくる。
「キョースケってさ、何者なんだよ」と、突然真面目な顔をして訊ねるシュイは、恭介の正面で胡座をかいた。
「じぶんはコスモポリテス出身だけど、あんたはちがうよな。だって、そんな黒い髪と眼をした人間なんて、今までどこにも居なかった。」
「……そうか。」
「あんた、どこから来たんだ?」
(どこって……、そりゃ、日本からってこたえてやりたいけど、こればっかりは、ジルヴァンに打ち明けるのが先って決めているからな……)
恭介は、にやりと笑みを浮かべ、シュイを焦らせた。
(次の共寝で、オレはジルヴァンにすべてを打ち明ける。どう思われようと、覚悟ならできている。……オレはもう、キミに隠しごとをしたくないンだ。……本気で愛しているから)
恭介はジルヴァンへの想いを強く意識しながら、共寝の夜を迎えた。
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