恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第329話

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 無性愛者とは、他者に対して性的な欲求をいだくことがない人々を指す。恭介が第6王子の情人イロである事実を打ち明ける前に、同室者ルームメイトのシュイもまた、驚きの性癖を公言した。

「うん? さっきなんてったんだ? 無性愛って、どうしてそうなった?」
「そ、そっちこそ、ずいぶん贅沢な身分じゃねーか。いつから王子様、、、と、エロいことヤってるンだよ!」
露骨ろこつな表現はよせ。ジルヴァンとオレの共寝は合意の上だ。」
「共寝って、まさか性交セックスのこと!?」
「そうだけど……、シュイ、声の調子を少し低めてくれ。隣室となりにまで聞こえる。」
「あ? ああ、悪い……。じゃなくて、申し訳ございません……?」

 第6王子の情人相手に、生意気なまいきな態度を改めようとするシュイだが、恭介の表情にけわしさがないため、つい、気安く接してしまいそうになる。3番館は両側に同部屋へやがあるため、薄い壁板を気にして恭介が釘を刺す。突然の状況にシュイは対処に悩むが、恭介の関心はランカから同室者へ移行した。

「キミは、誰かを好きになった経験ことがないのか?」

 いつものシュイならば、「そんなのキョースケには関係ねぇだろーが!」と突き返していたが、いきなり王族の情人と正体をあかされた今、素直にこたえるしかないと思った。実際、恭介の立場はそこまでえらくはないが、知識不足のシュイは、取りあえず正座をしてかしこまる。

「好きになるどころか、たいていの人間は嫌いなんだ……。っていうか、苦手というか、あまり興味がない。」
「オレのこともか?」
「キョースケは嫌いじゃないけど、好きでもない……です。」
「はっきり云ってくれるな。」

 無意識に恭介が「ぷっ」と吹きだすと、シュイも「へへっ」と笑った。室内の空気がなごんだところで、恭介は一張羅いっちょうらに着替えた。壁の衣紋掛えもんかけに、文官布を吊るしておく。引っ越し当初、やけに針仕事の女官を忌避する理由に納得しつつ、シュイの体質は見た目の印象と異なり、ランカよりも繊細せんさいではないかと思えた。しかし、文官の道を選んだ以上、関係者との交流は発生する。

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