328 / 359
第327話
しおりを挟む完全に足の感覚が戻ったわけではなく、痺れが残る状態で立ちあがった恭介は、前のめりにフラついた。咄嗟にランカが腕を差しのべたが、恭介の体重を支えきれず、一緒に床板へドターンッと倒れ込む。
「痛テて!」
「イシカワ様、ご無事ですか!?」
「ああ……、キミこそ大丈夫か?」
ランカに転倒の衝撃を与えないよう、瞬時に反転して自ら下敷きになった恭介だが、背中の痛みに顔をしかめた。覆い被さっているランカの躰は、恭介が全身で受けとめたが、細身の青年につき、苦痛に捉えるほど圧迫感はない。ただし、偶然とはいえ、互いの下半身が密着しているため、ランカのほうで先にうろたえた。そこへ、昼飯を済ませて通りかかったシュイと、顔を合わせた。
「なにやってんの、あんたら。仮にも側近候補のくせに、昼間っから盛ってんのかよ。」
「莫迦っ、ちがうっての!」
完璧に誤解されたが、シュイの状況判断は、にわかに間違いとは云い切れない。その証拠に、恭介の右手はランカの尻を服の上から掴んでいた。(やべ!)と、慌てて両腕をあげたが、シュイの目は冷ややかだ。
「じゃま者は消えるから、続きを楽しみなよ。じゃあな、キョースケ。」
(だから、ちがうっての!!)
シュイは、ひらひらと片手を振り、廊下を去ってゆく。上体を起こしたランカは、気まずそうに沈黙している。シュイに対して、反論すべきはランカのほうではないかと思いつつ、恭介は文官布の皺を指ではらった。体面を汚されたランカに、恭介は「悪かったな」と、ひとこと謝罪した。
「……ぼくのほうこそ、すみません。どこもお怪我はありませんでしたか?」
「背中を打ったけど、大丈夫だ。」
「そうですか……。あ、あの、昼食はおひとりで行かれてください。ぼくは、いったん室に戻ります。」
「ああ、わかった。またあとでな。」
「はい、失礼します。」
小走りで去ってゆくランカは、あきらかに動揺していた。恭介は片方の手のひらを見つめ、柔らかい臀部の感触を思いだし、「マズかったか?」と、つぶやいた。
* * * * * *
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
171
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる