恭介の受難と異世界の住人

み馬

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第322話〈今更ながら後悔〉

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 恭介が文官として新たな道に進むころ、王室行事で忙しく過ごすジルヴァンは、寝間ベッドルーム裸身はだかになると、絹糸の寝間着に袖を通し、不貞寝ふてねした。護衛剣士のカイルは、床に散らばった衣服を片付けて棚の上に置くと、寝台ベッドへ近づいた。

「……お休みのところ、すみません。王子様、ひとつおきしてもよろしいですか?」

 ジルヴァンは枕に顔をうずめていたが、クルッと横を向き「申してみよ」と返す。就寝時刻にはまだ早すぎるため、カイルの会話に応じることにした。

「最近のご様子を見るかぎり、ずいぶん痩我慢やせがまんをなさっていませんか。」
「やせ……? なんだそれは。食事なら、残さず食べておる。」
「そういう意味ではございません。ひと月ほど前、せっかくキョースケ様が訪ねてこられ、女官が伝言を預かっていたのに、なぜ返事をされなかったのですか? キョースケ様は王子様に、急ぎのご報告があったように思われます。……本来、内官の身で王子様に謁見を求めることはできませんが……、」〔第312話参照〕
「……ふん。そのことならば、どうせ文官試験の結果であろう。今更、もう遅いわ。」
「遅い……ですか? 合否ごうひが定かでないうちは、王子様の反応に気が引けて、お話できなかったのではないでしょうか。」
「だとしても、あやつの気を知れずにいた間が非常に不愉快ふゆかいだ。前もってひとこと相談があれば、応援してやれたものを……。」
「つまり、何も後押あとおしできなかったから、そのようにねていらっしゃるのですね。」
「す、拗ねてなどないわ!」

 ムキになって云い返すジルヴァンを見たカイルは、恭介がうらやましく思った。いくらでも取り替えのきく情人イロが、これほど大事に扱われるのは異例である。第6王子が“イシカワキョースケ”に特別な感情をいだいていることは明白だ。カイルは無意識に苦笑すると、ジルヴァンの髪にれようとした手を自制した。

「……王子様の悩みのたねが、幸福事しあわせごとで安心しました。」

 軽く頭をさげたカイルは、「おやすみなさいませ」と云って退出すると、廊下で控える女官と共に、大切な人の見張りについた。

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