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第321話
しおりを挟むコスモポリテスに下着を身につける習慣はない。そもそも、トランクスやボクサーパンツといった肌着が存在しなかった。いくら同室者で男同士とはいえ、恭介はジルヴァンの情人として、他者に肌を晒す際(入浴時など)は、なるべく周囲に気を配っていた。
「ほら、キミの分だ。」
そういって、膝を抱えるシュイに仮縫いの衣服を差し出すが、受け取るようすはない。仕方なく床に置くと、シュイに背を向けた。室内に衝立はなく、目隠しになるような家具も準備されていない。恭介は一張羅の前をひらくと、腰までさげて、その上から仮縫いの袖を通した。生地が足りない。恭介の腕が長いわけではなく、試着用の文官布が小さかった。
「……もう少し、大きめに作ってもらわないとダメだな。」
バサッと脱いで半裸になると、一張羅の衿を合わせた。すると、沈黙を保っていたシュイが、ボソッとつぶやいた。
「あの流言、本当だったんだな。……あんたの右腕の傷、スガードって内官を庇って切りつけられたンだろ。」
「うん? ああ、レッドのことか。」
「……切られた時、痛かった?」
「まあ、それなりにな。」
「なんで、そうまでして、他人を助ける必要があったンだ。」
「なんでって云われてもな……。逆に云えば、理由がなければ、誰かを助けちゃいけないってこともないだろう。」
「意味不明なんだけど。」
「要するに、オレの勝手さ。それより、キミも早く試着しろよ。外で女官が待ってるぜ。」
恭介が一張羅の腰紐を結び直しながら云うと、シュイは、ギクッと、表情を歪めた。
(まただ。その微妙な反応は、なにが原因なんだ?)
シュイは、とある理由で女性恐怖症を患っていたが、同性愛者ではない。恭介に催促されると、スクッと立ちあがり、恥じらうようすもなく裸身になると、仮縫いを全身にまとう。紫紺の詰衿が、シュイの淡紫色の髪とよく似合っている。「へぇ!」と、思わず恭介が感心すると、ジロッと、睨まれてしまった。ついでに、シュイの陰毛は黒かった。
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