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第320話
しおりを挟むランカは、スラッとした細身で、濃い黄色の髪と眼をもつ青年だった。どことなく気品を感じるため、恭介のほうが田舎くさい風貌に見える。ただし、恭介自身は無自覚だが、均整の取れた体格や面構えは上等の部類だった。
(ランカって、もしかして王都育ちってやつか? シュイとちがって、姿勢からして上品だよな……)
シュイは、地方からやって来た若者で、とくに身分が高いわけではない。だが、ランカの家柄は代々高官を輩出してきた実績のある名家だった。とはいえ、育ちの差異で人種を区別するほど、恭介は計算高くない。気さくに握手を交わし、世間話をして別れた。3番館に戻ると、シュイが床に転がっていた。なかなか緊張感のない若者である。ある意味、肝が据わっている。
「おい、シュイ。もう少し端によけてくれよ。」
ただでさえ狭い床面積につき、大の字で寝られては、恭介がくつろげない。しかも、脱いだ履物が散らばっている。恭介は年長者として注意すべきか悩んだが、黙ってシュイの皮靴を板の上に揃えておいた。
(……せっかく側近候補同士だし、ランカと同室でも良かったかもな)
つい、内心で本音をつぶやくと、何かを感じ取ったシュイが、ガバッと起きた。恭介は(やべっ、悟られたか!?)と、一瞬、反省したが、シュイは壁際に移動すると、膝を抱えて座り込む。
(……うん? なんだ、その態度は……)
あきらかに、怯えている。よく見ると、肩が小さく慄えていた。間もなく、扉の前で女性の声がした。
「3番館のイシカワ様、シュイ様、文官布の仮縫いをお持ちしましたので、試着をお願いします。」
カタカタ慄えるシュイを横目に、恭介が扉を開けて応対する。
「試着は夕方からじゃなかったのか?」
「前回より合格者の人数が増えましたので、急遽、早めの試着をお願いしております。ご協力くださいませ。」
「了解。これを着てみればいいンだな?」
「はい、こちらはもう人方分です。」
「オーケー、すぐ試すよ。」
「おーけい?」
針仕事を担当する女官は目を丸くしたが、恭介が、くすッと笑みを浮かべると、ポッと頬を赤く染めた。女官はそのまま扉の前で待機した。
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