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第319話〈シュイとランカ〉
しおりを挟む「うお……、思ってたより狭いな……。」
恭介が身をおくことになった御室堂の3番館は、ふたり分の布団を敷いたら残りの床面積は殆どないと云っても過言ではなかった。小さな方卓と燭台、私物を収納する蓋付きの籠がある。円形の窓は西側にひとつあり、脱いだ革靴を置くと思われる1枚の板が扉の横に設置されていた。
(これでふたり部屋って、マジかよ。ザイールの部屋が広かっただけに、窮屈に感じるぜ……)
荷物を床に置いて胡座をかくと、あとから同室の番号を引き当てた〈シュイ〉が、バターンッと、勢いよく扉を開けて入ってきた。先に室内にいた恭介を見るなり、ギロッと、睨みつけてくる。淡紫の髪と眼をした、20歳の若者である。立ちあがる恭介を斜に見あげ、「まさかあんたと同じ室になるとはな」と、憎まれ口をきく。
「オレのことを知っているのか?」
恭介的には初対面につき、首を傾げて聞き返した。若者は「イシカワキョースケだろ。じぶんは、シュイ=リッカ=セージだ」と名乗り、壁際にドカッと腰をおろした。
「シュイくん、履物は脱がないと室内が汚れるだろ。そこの板に揃えて置けるようになってるぞ。」
恭介が扉の横を指で示すと、シュイは、わざとらしくため息を吐いた。
「なんだよ、“シュイくん”って。気持ち悪ィな。シュイって呼べよ。じぶんもあんたのことは、キョースケって呼ぶからさ。」
「そうか、わかった。これからよろしくな、シュイ。」
「……よろしく。」
なにやら言動が図々しい歳下の男だが、ジルヴァンと同い歳(あとから知る)につき、独特の意思の強さと自信を感じた恭介は、軽く肩をすぼめた。今後1年間は同室者として寝食を共にする以上、初日から衝突は避けたい。履物を脱ごうとしないシュイを、放っておくことにした。文官布のサイズ合わせまで時間があるため、恭介は、いったん退室した。息の詰まる個室を抜け出した候補生たちが、建物のあちこちをふらついている。その中に、見知った顔を発見した恭介は、自分のほうから近づいて声をかけた。
「よう、元気にしてたか?」
ポンッと、背後から肩に手のひらを置かれた〈ランカ〉は、ビクッと躰を硬張らせて振り向いた。
「あなたは……確か……、」
「イシカワキョースケだ。合格発表の日、いちど会ったよな。」〔第305話参照〕
「ええ、そうでしたね。……ぼくは、ランカ=ミューン=ロゼッタと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしくな。」
ランカは、恭介と同じ側近候補のひとりである。
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