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第318話
しおりを挟む御室堂とは、アミィのような官吏が暮らす集合住居で、仕える相手の呼び出しに即座に応じることができるよう、天和殿の近くに建っている。天和殿とは、王族の住まいである。既婚者の第4王子などが暮らしていた。ちなみに、側室から生まれた義王子のルシオンは、君影堂という別棟で生活を送っている。第6王子の寝間は城内の東棟にあるが、天和殿にも自室を持っていた。だが、基本的に情人の出入りは禁止されている聖域につき、恭介は文官としてならば、足を踏み入れることが許される場所だった。
「……以上で説明は終わりである。それぞれ籤を引いた番号の室で荷物を整理するように。夕刻には文官布の貸与がある。各自、試着をしてから受け取ること。また、明日から始まる授業には、必ず文官布で出席すること。すでに別件で勲章を授与している者は、身につけず持参すること。」
教官らしき髭面の男は、晴れて文官試験に合格した候補生の前で、およそ1時間近く細かな説明を述べたあと、あいうえお順に並ばせた列の頭から、御室堂の室を決める籤を引かせた。恭介の姓は“イシカワ”につき、最前列に立っていた。
(籤で同室者を決めるのか……。けっこう単純な発想だな。まあ、年齢に関係なく、ここに集まった連中は全員、262期生だもんな……)
欠伸をがまんしていた恭介は、差し出された木函に左手を突っ込み、適当な1枚をひいた。
「イシカワキョースケ、3番館!」
籤引きの担当者から「正面から向かって右に曲がれ」と、付け足された恭介は、「はい」と返事をすると、すでに何人かが御室堂に入っていく列に続いた。同じ広場にユスラもいたが、後方すぎて姿を目視で確認することはできなかった。
(や、ゆ、よ、の列は、あっちのほうか。……ユスラのやつ、どこに居るンだ? こっちからだと全然、見えねーや)
ただでさえ、ユスラの身長は低めである。恭介の存在は黒髪というだけで多くの人間の目に留まるが、ユスラは人影に紛れているため、探すことは不可能だった。事務内官の仕事については、恭介もユスラも、アミィの提案により休職扱いとなっている。これから1年間、ユスラは文官として、恭介は側近候補として、厳しい教育を受ける必要があり、なかには権利を放棄する者もあらわれた。
(きょうから御室堂が、オレの新しい生活空間になるンだな!)
恭介は、いちど深呼吸をしてから、3番館と札のついた扉を、ギィッと、開けた。
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