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第316話〈いざ、引っ越し〉
しおりを挟むアレントは、リゼルと2時間近く話し込んだ挙句、たいして素性の知れないウルを養子にするといって、書類に印判を押す。リゼルについては、両親が健在につき、ひとまず平民の仮登録を受理した。つまり、半獣と人狼が、コスモポリテスの国民として初めて記録に残されたことになる。リゼルは大喜びしたが、ウルは、アレントの監視下に置かれる立場が不満のようで、「チッ」と、舌打ちをした。しばらくは、神殿の客間で生活を送り、神官たちから教養を学ぶことになった。
「やったな、ウル! これで、オレとおまえは一緒に色んなことが勉強できるぞ!」
「……そうだな。」
平民の仮登録証を片手に、リゼルはうきうきしている。アレントはすでに退出しており、ザイールがふたりを客間へ案内中だ。
「ふたりとも、おめでとうございます。書類上とはいえ、良かったですね。これから3年間、どうか勉学に励み、正式な国民へと昇格できるよう、精進なさいませ。」
「ああ! わかってる。あんたも、えっと、ザイールさん! ありがとうな!」
「いいえ、とんでもないです。わたしは何もしていませんよ。リゼルくんの熱い思いが、アレントさまに通じたのでしょう。さあ、この部屋を自由に使ってください。洗濯室や浴室は、その通路の先にあります。食事の補助も3食つきますが、何か不自由がありましたら、いつでもご相談ください。アレントさまが承認された以上、わたしも可能なかぎり善処します。」
ザイールから部屋の鍵を受け取ったリゼルは、早速、寝台に躰を横たえた。
「は~~~っ、なんか疲れたぁ。やっとここまで来たって感じだな~~~!」
ザイールが去った後、扉の鍵を内側から締めたウルは、6畳ほどの狭い部屋を見渡した。小さな窓には外側から鉄格子があり、寝台がふたつ並ぶほかは、テーブル1台と椅子が2脚、抽斗付きの書棚が設置されている。昼間だというのに、薄暗い。立地条件の都合上、陽射しがあまり入ってこない場所だった。
「フン。まるで囚人扱いだな。これのどこが客間だよ。あのクソだぬき。元は倉庫かなにかの部屋にしか見えねぇぞ。」
「クソだぬきって、アレンさんのことか? せっかくおまえを養子にしてくれた人なのに、そんな呼び方をしたら、気を悪くするだろ。」
リゼルがゴロンッと反転すると、いきなりウルが覆い被さってきた。口唇を吸われ、リゼルは「は!?」と短く叫ぶ。
「何やってンだよ! オレは疲れてるんだってば! 少し休ませろ、変態オオカミ!!」
「少しと云ったな。いいだろう。夜になったら抱く。覚悟しとけ。」
なにやら上から目線で宣言されたリゼルは、ウルの腹を蹴飛ばして拒絶した。
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