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第313話〈変わりゆく中で〉
しおりを挟む恭介が何かと悶々する同時刻、神殿に向かったリゼルは、またもや適当に見つけた神官に声をかけた。
「おい、そこのおまえ。戸籍をもらいにきた!」
「あ、はい。戸籍ですね。それならこちらへどうぞ。……あの、そっちの犬は?」
「む? 犬じゃない。こいつはウルだ。オレと一緒でもいいだろ?」
「……は、はあ、どうしてもと仰るならば……、」
ひとりと一匹を応接室まで案内した神官だが、室へはいるなり、リゼルが頭巾を取りはらい、ウルが人型に変わると、「ひーっ!?」と叫び、腰を抜かした。
「あ、あなたたち、人間じゃないのですか!?」
「ああ、そうとも。オレは半獣で、ウルは人狼なんだ。よろしくな!」
「よ、よろしく……とは?」
「おまえ、丸眼鏡をかけているから、ザイールだろ? さっき、城門で会った男が、そう云ってた。」
「城門……? も、門衛のことでしょうか……。」
リゼルとザイールのやりとりに、ウルが「黒髪の男だ」と短く付け足した。すると、ザイールは「えっ?」と反応し、スクッと立ちあがった。
「黒い髪とは、それはもしや、キョースケさまのことでは? あなたたちは、キョースケさまのご友人なのですか!?」
「キョースケ? さあ、名前は訊いてないけど、ウルの云うとおり、髪は黒くて短い男だった。そうか、あいつ。キョースケって云うのか。変わったヤツだったぞ。オレたちの姿を見ても、ふつうにしてたからな。」
「……キョースケさまが、わたしになんと?」
「ん? 戸籍をもらうなら、神官のザイールってヤツに相談しろって云われたんだ。」
「キョースケさまが……、わたしに……。」
ザイールは突然の状況に困惑したが、恭介の名前を耳にした途端、内心ホッとした。さらに、暗黙の了解でリゼルとウルの身上を任されたような気がして、使命感に火が点いた。
「わ、わかりました! では、しばらく室内でお待ちください。大司祭のアレントさまに、事情を説明して承諾していただきましょう。生憎わたしの一存で、獣人の方々に戸籍を差しあげることはできません……。」
「そうなのか? オレたちは、この国で産まれたのに?」
リゼルは当たり前のように訊ねるが、傍らのウルは軽く肩をすぼめた。誕生した瞬間の土地が同じであろうと、種族により区別されている。人間の恭介のときのように、そう簡単に戸籍は発行できない。しかし、ザイールは二匹のため、大司祭の力を借りることにした。神殿では最高位のアレントならば、特例として許可を出すことが可能ではないかと考えた。それ以前に、恭介の身のまわりに悪人はいない。ザイールは「わたしがやらねば誰がやる」の精神で、アレントが1日の大半を過ごす書斎の塔へ向かった。
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