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第312話
しおりを挟むゼニスとシリルが生殖行為をして誕生した、唯一無二の存在である〈リゼル〉と接触した恭介だが、第6王子のことで頭がいっぱいにつき、速歩でジルヴァンの寝間まで向かった。扉に顔を近づけると、コンコンッと、軽く叩いて声をかける。
「ジルヴァン、いるか? オレだけど、少し話せないか? いたら返事をしてくれ。」
廊下で待機する女官は、呼んでもいない情人があらわれ、只事ではないとばかり、おろおろ困惑気味だ。しかし、現在の恭介は、女官よりも立場が上の役職に名が挙がっている。恰好こそ事務内官のままだが、ひと月後には御室堂へ身をおくことが決まっていた。
「ジルヴァン、頼むから返事をしてくれ。」
時刻は昼休みだが、第6王子が寝間に戻っているとはかぎらない。実際、護衛剣士の姿が見当たらないため、どこかへ外出していると思われた。女官に行き先を訊ねると、少し間をおいてからこたえてくれた。
「ジル様は、ここにはおりません。明日は第4王子様のご生誕を祝う祭典に出席されますので、その衣装合わせに向かわれました。」
(つまり、シグルトの誕生日か。……くそっ、間が悪いな)
この場にいても会えない以上、伝言を残すしかない。恭介は女官のひとりに頼み込むと、休憩時間が終わる前に執務室へ戻った。いちばん最初はジルヴァンに報告したかったが、試験の結果発表日、掲示板の先頭に恭介の名前を見つけたユスラにより、レッドにも文官への昇格と移動が知れてしまった。ちなみに、その時のレッドの驚きと興奮は、云いあらわせないほどで、執務室は大騒ぎ状態になった。ユスラ自身も、あまりの顛末に、気の抜けたような表情をしていた。
(世話になったザイールにも、早く話さないと……。それから、行き遭えたらボルグさんにもだな。高官の研修が始まれば、皆とは、しばらく会えなくなりそうだし……)
結局、ジルヴァンへの報告が最後となりそうな状況に、恭介はキリキリと胃痛がした。こんなはずじゃなかったのにと、とにかく歯痒くなる。執務室に戻り、いつも以上に大量の伝票をテキパキ片付け、レッドの面倒をみながら、ユスラに指示をだす。仕事に集中することで、焦る気持ちを紛らわせた。この仕事に精を出せるのは、あとわずかという寂しさも感じていた。
(……いかんいかん。オレは高官になったンだ! 未練がましい男になるな! かっこう悪いぞ!!)
悶々する部位は、頭だけではない。ジルヴァンを抱きたくてしようがない恭介は、下半身が疼いた。そもそも、3ヵ月以上も顔を合わせていない。恭介のがまんは色々な意味で限界だった。
その日の仕事を終えて執務室の戸締まりをすると、コツコツと廊下を歩きながら、ふと、城門で遭遇した人外について、思い返す瞬間があった。
(そういえば、あのふたり……、二匹か? 神殿で戸籍抄本を発行してもらえただろうか……。リゼルとウルって、云ってたな……)
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