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第311話
しおりを挟むもう土下座して謝るしかない。そう思った石川恭介、28歳、第6王子の情人は、白昼堂々、ジルヴァンの寝間へ叱責覚悟で向かった。いったんは廊下を突き進んだが、気持ちを落ちつかせるため、コスモポリテス城の門前に移動して、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。何度か深呼吸をくり返した後、「よし、行くぞ」と気合をいれて踵をかえす。そこへ、「おい、おまえ!!」と、威勢よく誰かに呼び止められた。振り返った恭介の視線の先に、頭巾を被った若者らしき人物と、一匹の大きな犬がいた。〔第211話参照〕
「オレは半獣のリゼル、こっちは人狼のウル。戸籍をもらいにきた!」
「うん? 戸籍なら、城じゃくて向こうの神殿に相談してくれ。」
「……おまえ、なにも愕かないのか?」
「愕くって、なにが?」
「オレたちは人間じゃなくて、半獣と人狼って云ったのに!?」
頭巾を取って獣耳を見せたリゼルと、オオカミの姿から人型になるウルを見ても、恭介は顔色ひとつ変えなかった。
(……うん? もしかして、ここは相手に合わせてびっくりしたほうが良かったオチか?)
正直なところ、ジルヴァンとのあいだに生じている誤解が気になって、他者まで関心が及ばない恭介は、「わからないことがあれば、丸眼鏡をかけたザイールって神官がいるから、彼に訊ねるといいよ」と付け足して、立ち去った。
「な、なんだあいつ。ちっともふつうじゃないか……。拍子抜けしたぞ。なぁ、ウル!」
リゼルのほうが、恭介の意外な反応に目をパチパチさせ驚きの表情を隠せない。いっぽうウルは、「向こうのが、めずらしい黒髪だしな」と云って、再びオオカミの姿へ戻った。一連の会話を眺めていた中年男の門衛が、誰よりも驚いていた。こうして、集うべき場所に揃ったコスモポリテスの住人は、幸か不幸か、結果として恭介と係わり合いを持つことになる。
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