312 / 364
第311話
しおりを挟むもう土下座して謝るしかない。そう思った石川恭介、28歳、第6王子の情人は、白昼堂々、ジルヴァンの寝間へ叱責覚悟で向かった。いったんは廊下を突き進んだが、気持ちを落ちつかせるため、コスモポリテス城の門前に移動して、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。何度か深呼吸をくり返した後、「よし、行くぞ」と気合をいれて踵をかえす。そこへ、「おい、おまえ!!」と、威勢よく誰かに呼び止められた。振り返った恭介の視線の先に、頭巾を被った若者らしき人物と、一匹の大きな犬がいた。〔第211話参照〕
「オレは半獣のリゼル、こっちは人狼のウル。戸籍をもらいにきた!」
「うん? 戸籍なら、城じゃくて向こうの神殿に相談してくれ。」
「……おまえ、なにも愕かないのか?」
「愕くって、なにが?」
「オレたちは人間じゃなくて、半獣と人狼って云ったのに!?」
頭巾を取って獣耳を見せたリゼルと、オオカミの姿から人型になるウルを見ても、恭介は顔色ひとつ変えなかった。
(……うん? もしかして、ここは相手に合わせてびっくりしたほうが良かったオチか?)
正直なところ、ジルヴァンとのあいだに生じている誤解が気になって、他者まで関心が及ばない恭介は、「わからないことがあれば、丸眼鏡をかけたザイールって神官がいるから、彼に訊ねるといいよ」と付け足して、立ち去った。
「な、なんだあいつ。ちっともふつうじゃないか……。拍子抜けしたぞ。なぁ、ウル!」
リゼルのほうが、恭介の意外な反応に目をパチパチさせ驚きの表情を隠せない。いっぽうウルは、「向こうのが、めずらしい黒髪だしな」と云って、再びオオカミの姿へ戻った。一連の会話を眺めていた中年男の門衛が、誰よりも驚いていた。こうして、集うべき場所に揃ったコスモポリテスの住人は、幸か不幸か、結果として恭介と係わり合いを持つことになる。
* * * * * *
1
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる